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創作・HOME

自分にしては相当長編でした。ブロトモじゅえるさんの呟きに反応して書いたのですが、最初からお話は絶対ハッピーエンド、メロでもベタでもいいから、読後 幸せになったらいいなと思って頑張りました。
書いてみると苦労したけれど、それは時間がなかった、ということだけであって、創作の苦労はキツイというよりあとで考えるとけっこうSWEETです(笑) Mかな???(笑)



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ハングル講座@HOME by chibineko

☆HOMEサイド&スピンオフby JEWEL先生は別カテゴリに移動しました。m(__)m
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by juno0712 | 2009-07-12 08:52 | 創作・HOME | Comments(0)

ハングル講座@HOME

☆16話から22話までのレス終わってますm(__)m
☆この記事のレスも終わってますm(__)m
☆カテゴリーから飛んでみてくださいね。あとは最終話のレスだね。待っててねm(__)m




皆様、こんばんは。

HOME読んでいただきどうもありがとうございました。
本当は、最終話で入れるつもりだったちび猫さんのハングル講座。
いつも目いっぱい1話に詰め込んでいるので、これを一緒に投入するのは
危険だったんです。

なので。独立した記事に。

びょんほんファンの皆様の中にはハングルを勉強されている方多いですよね?
ちび猫さんも忙しい中、二級でしたか??
すごいよね・・・

私は、いつか勉強しよう!とか思いながらまったく・・・
創作でもし、韓国語が必要なら、ちび猫さんにまた頼めば・・・な~んて
怠け者気質丸出しですみません!!m(__)m


それではうちに非コメで入れてくれたそのままで。




憲・・・お前・・・早く寝てくれよ・・・」
「켄···너···빨리 자 줘···」   
ケン ノ パルリ チャ チュォ




「せっかくお前のお母さんとのらぶらぶな時間が楽しみだったのに・・・」
「모처럼 너 엄마와 러브러브한 시간을 기대했었는데···」
モッチョロム ノ オンマワ ロブロブハン シガヌル キデヘッソンヌンデ

・・・「ラブラブな時間を」はそのまま訳しましたが、韓国語ではどう表現するのか。たとえば、「甘い時間を」なら 달콤한 시간을  タルコマン シガヌル 。



「ほら・・・だめだって・・・そっち行っちゃ・・・」
「이봐요···안돼・・・그쪽에 가 ···」
イバヨ  アンデ  クッチョゲ カ・・・



「お母さんは疲れてるんだから寝かせてやれ」
엄마는 지치고 있으니 재워 줘라
オンマヌン チチゴ イッスニ チェウォ チュラ



「憲・・・お前がもう少し大きくなったら俺が行った外国の話をしてあげるよ」
「켄··너가 좀 더 커지면 내가 간 외국의 이야기를 해 주겠지요」
ケン ノガ ジョム コチミョン ネガ カン ウェグゲ イヤギル ヘ チュゲッチョ




「すごーく夕陽がきれいで・・・お前みたいな赤ん坊が元気に育ってて・・・」
「굉장히 석양이 멋있고, 너같은 아기가 건강하게 자라고 있어···」
ケンジャンイ ソニャンイ モッシゴ ノカットゥン アイガ コンガンハゲ チャラゴ イッソ

・・・夕陽がきれいは、 カッコイイ、クール、素敵、素晴らしい等々意味のあるモシッタを採用しました。男性っぽい表現かなと。




「いつか一緒に、お前とお母さんをあのモンゴルに連れてってあげたいよ」
「언젠가 함께、 너와 너의 엄마를 그 몽골에 데려 가 주고 싶어」
オンジェンガ ハムケ、 ノワ ノエ オンマル ク モンゴレ テリョ ガ チュゴ シポ




「お前とお前のお母さんを愛してる・・・」
너와 너의 엄마를 사랑한다・・・  してるんだ。
ノワ ノエ オンマル サラハンダ・・・

너와 너의 엄마를 사랑하고 있어・・・ 愛しているよ
ノワ ノエ オンマル サランハゴ イッソ


お前とお前のお母さんを愛してる・・・
너와 너의 엄마를 사랑해요 サランヘヨ

上は、憲に宣言している感じで話しています。
下は、憲に愛しているよ~という現在進行形で話しています。



「おやすみ・・・」
잘 자・・・
チャル ジャ





なるほど~・・・って全然私はわかりませんが、こう書いてもらうとびょんほんが囁いたら。。。ってまた
リアルになるんですよね・・・

ほとんどはちび猫さんが書いてくださったとおりにコピペしたのですが、

「お前とお前のお母さんを愛してる」

↑これだけは彼女は選択肢を与えてくださり・・・
私が選んだのは


너와 너의 엄마를 사랑하고 있어・・・ 愛しているよ
ノワ ノエ オンマル サランハゴ イッソ


まったく韓国語のわからない私ですが、ぼそぼそ口の中で繰り返し、カタカナをつぶやいたときに
しっくりきた・・・って言うのがほんとのところです。
いろいろニュアンスが違うんでしょうね?


本当にちび猫さん、ありがとう~!

りあるじゅえるさんのマジな呟きのいくつかがHOMEの大元になり、書いてるうちに
やっぱり彼の話す韓国語がほしくなり、ちび猫さんにお願いしたのでした。
重ね重ね、構想や小道具(言葉)まで、ブロトモに調達している私ったら
相当ちゃっかりしてますね。


そうそう、この際ですから、HOMEで載せなかったとこ、書いときますね。

◎6話で、麻里が友人とホテルで・・・の時に「財務省キャリアと婚約破棄した」って言ってましたが

何が原因かって言うと・・・
男がプロポーズを受けてくれたのに気をよくして、麻里に「君の仕事、やってもやらなくてもスキにしていいから」って言うのですが・・・もちろん彼は優しさのつもりでね。
たったその一言で麻里は彼がイヤになったのでした。「私の仕事まで、まるごと理解してないじゃん!」みたいな。
これ、理解できる?いや、理解できなくてもいいんですけど。
そうだ!!これ、りあるじゅえるさんにUP直後に突っ込みいれられたんだった!!!
「理由はっきりしないと麻里が適当な女に思われる!!」って!!
ごめん!!そうだった。入れなきゃいけなかった!!今思い出した私って・・・ばかだわ・・・
麻里は適当な女じゃありません!って今言う私を許してくださいm(__)m



◎24話(最終話)で玲子と麻里が電話で・・・

実は玲子の夫が米国系コンサルティング会社を突然やめた理由は・・・
「最年少取締役」になる気満々だったのに、その社内の抗争に敗れてしまって、やめてしまったのでした。
そして彼は、米国で勉強して再挑戦するらしい。今度はアメリカで。
玲子は、彼がアメリカの大学に行くことを告げられた時に「今、彼と別れて生活したら・・・もしかしてやばいかも」って思いまして、弁護士すっぱりやめて彼について来たって言うわけです。
玲子と麻里はお互い仕事バリバリですけど、玲子は自分たちの結婚、麻里よりも最初からすごく大事に考えてるタイプ・・・かな?
だから「麻里の彼、いいなぁ~」って言うせりふなどを書いてましたが、そのやりとりだけで何ページ??で、削除。
あの玲子のセリフは、今読み返しても正論すぎてちょっと鼻白んだりして??(笑)

あのへん、どうしていいやらわからんかったわ・・・
りあるじゅえるさんにもメールしたんだった・・・
彼女の回答「マジな愛を今、目の前に突きつけられてる!麻里はそれを自覚する必要がある!」って。
そうだよね~そうだよね~ありがとう!


あと、何箇所か削ったんだけど・・・忘れましたm(__)m




それでは最後に・・・



굴곡위( クルコクィ)、

후배위(フベウィ)


↑これ、何だと思います?

答えはね・・・
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by juno0712 | 2009-03-30 19:52 | 創作・HOME | Comments(15)

HOME24話(最終回その2)

「どうしたのよ~!びっくりしたわよ。夫婦喧嘩でもしたの?」

「あぁ玲子・・・ごめん。変なメールしちゃって。でも大丈夫だから」

「大丈夫って何が!どうしたのよ。何よ、そのテンションの下がった声は!」

あんなメールくれたら電話よこせって言ってるようなもんでしょ?と言わんばかりに玲子が言った。

「彼さ・・・写真家じゃなくて写真屋をやりたいらしい」
「私と憲と一緒にいたいから、だって」

「それで?」

「結婚しなきゃよかった。私」
「憲と二人で日本でこっそり生きてればよかったのよ」

そんなことを呟く私を玲子はしばらく黙っていた。
久しぶりに玲子と話しをしたせいで私が気弱になっていると思ったのか
優しい言い方で玲子は私に何があったのか、と聞いてきた。
私は玲子に問われるままにぼそぼそと答えた。

「それでどうしたいの?」
「・・・」

「まさか離婚して東京に帰ろうって思ってるの?」

そう聞かれて私は玲子に言った。

「そうしなきゃ、彼、目が覚めないと思う」

玲子は少し黙って、ゆっくり言い含めるように言った。

「・・・麻里・・・あなたさ、なんでそうなるのよ。彼の好きなようにさせたらいいじゃない」
「それが彼の考えた幸せなんだから」
「麻里、かっこつけすぎだって!」
「だいたいお互いやりたいことやってたら憲はどうすんのよ」
「ねぇ麻里・・・聞いてる?」

一気に玲子にそう言われて私はやっと口を開いた。

「私ばっかり・・・好きなことして・・・彼は最高の写真家なのに・・・」

泣くつもりなんか更々なかったのに鼻の奥が痛くなってきたと思ったら涙が出てきた。
頬を伝う涙を拭きもしなかったせいでパソコンの上に涙がぽたぽたと落ちた。

「麻里・・・あなた泣いてるの?」

玲子が電話の向こうで苦笑しているのがわかる。

「・・・彼があなたの犠牲になってるって思ってるの?だったら彼に失礼よね?」
「麻里の言いたいことはわかる。でも確かに呼吸するみたいに、
そういうことを自然にできちゃうタイプの人っているのよ」

玲子はしみじみと言った。

「変わったね。麻里」
「前のあなただったら、泣く前に別れてるわ」
「私、あなたからこんな相談受けたことなかったもの」
「いっつも事後報告だったものね~」
「麻里を泣かせる男か・・・すごいわ。あなたの彼」

感慨深いでも言いたげに玲子はそうつぶやきながら、私に言った。

「わかってる。わかってるわよ、麻里」

「あなたは彼のこと、輝かせたいんだよね」

私は受話器を耳に押し当てたまま黙っていた。
涙を我慢していたけれど、きっと玲子には私が必死で嗚咽をこらえていて
まともに話しができないことを気づかれてると思った。
玲子は幼い子供に諭すように言った。

「心配しないでいいから」
「彼が幸せであれば輝いてるわよ。いつもきっと。麻里と憲がいてくれればね」
「世間一般の、社会的名声とか地位とか、彼にとってはまったく意味のないことなんだろうな~」
「そういうことを当たり前のように捨てられる男ってある意味すごい男だわ」

「だからね」
「あなたも、彼の考えてる幸せにつきあってあげなさいよ」
「彼はあなたを泣かせる男なんだから、それ、忘れないように」
「いや~今日は麻里が男のことで泣いてる貴重な瞬間に遭遇したわ」
「麻里・・・今までもらった分、返してあげなきゃ。彼に。わかった?」

玲子はそういって笑った。

電話を切ったあと、久々に日本語で話せたせいなのか、玲子の前で涙を流してしまった自分が恥ずかしかった。
私は、玲子に「あなたがやろうとしていることは間違ってる」と断言してほしかっただけだったんだろうか。

小説の続きも何も手につかず、玲子の言ってくれた言葉を自分の中で繰り返していた。
そして寝室に行った。
ダブルベッドの真ん中に憲を寝かせ、彼は隣で小さな憲を守るように横向きに眠っていた。
私は彼と憲のそっくりな寝顔をまじまじとみつめた。

(あなたの考えてる幸せ・・・)

その時 寝返りを打った憲の手が彼の顔をぴしゃりと叩いた。
彼は一瞬眉間に皺を寄せ、頬をボリボリとかきながら、また何事もなかったかのように軽くイビキをかき始めた。
私はそれを見て苦笑した。

(ったく・・・愛されてる女はつらいわね・・・)
(おかげで一睡もできなかったじゃない)

私は、結局そのまま朝を迎え、久々にきちんと朝食を作った。
味噌チゲ、干しダラのぴり辛煮、野菜入り玉子焼き、牛肉の佃煮風、それと義母の作ったキムチを
いつものようにたっぷりと食卓に添えた。
彼が憲を抱っこしながらいつもの時間に起きてきて、何もなかったかのように 
おはよう、と私に声をかけた。

「あれ?なんか今日は朝からすごいな」

彼は並べられているおかずの数々を見ながら嬉しそうな声で言った。
彼は早速食卓に座って野菜入り玉子焼きをつまんでいる。
憲は椅子に自分で座ると、まだ目の前に自分の食事が用意されていないことが待ちきれなくて、
ヒナのように口をあけて父親にご飯をねだっている。
私は急いで憲のためのご飯を用意しながら、スプーンとフォークを食器棚の引き出しから取り出した。
憲の前に朝食の並べられたトレイを置くとご飯のスプーンを差し出した父親には目もくれずに
手とスプーンを使ってパクパクと食べ始めた。
彼はそれを見ながら呆れたように笑っている。
憲がこぼしているご飯をぶつぶつ言いながらつまむとそれを自分の口に入れながら、
彼は相変わらず気持ちいいほど美味しそうに平らげている。
私はしばらく苦笑しながらその光景を見ていた。
二人の目の前で突っ立ったまま眺めている私を怪訝そうに彼は見た。
私は言った。

「ねぇ・・・物件借りて、必要な機材そろえて・・・その仕事はいくらあればできるの?」

「え?」

彼はキムチをつまんだ箸をそのままにして私を見た。

「やりたい仕事が決まったんならすぐにやれば?」

何も言わずに私をみつめる彼に向かって続けて言った。

「あなたさぁ・・・私たちの結婚で貯金使い果たしたでしょう?」
「この家を借りたり、韓服を用意してくれたり、家具だって何だって・・・
そうそう、この家、古いけど水周りだけは全部新品になってたよね。」

私は自分の周囲をぐるっと眺めながらそういった。

「貯金使い果たして・・・足りない分はお義父さんに借りたんでしょう・・・?知ってるわよ。それくらい」

少なくとも彼よりは私の方が貯金を持っているはずだ。
写真集は確かに売れてはいるが、意外と少ない契約料は支払われているにしろ、
写真集の売れた分が入ってくるのはかなり待たなければ行けないことは私自身が経験で知っていた。
今の年収だって圧倒的に私の方が高い。
私は自分の貯金を使ってほしいと彼に伝えた。

彼はしばらく私をじっとみつめていたが照れたように笑うと
「ありがとう」そう言って私の顔を見た。

そして・・・半年後 彼はフォトスタジオを立ち上げた。

あの写真集で様々な賞を実際に取った写真家が撮ってくれるとあって
まず業界の人たちからの予約が殺到し、それが評判を呼んで考えられないほど彼は忙しくなった。

それでも彼が1シーンごとに誠意を持って撮り続けた記念写真は 華美ではない装丁をされて
完成すると彼はお客さんに手渡す前に私に見せてくれた。
そのたびに彼の被写体に向ける目が心の奥底を静かにじんわりさせるほど暖かいことを私は実感した。

年老いたオモニを囲んだ一家の写真
兵役に就く前に撮りに来た恋人たちの写真
明日、嫁に行く前に、と記念に撮りに来た家族の写真
そして待ち望んでやっと生まれた赤ん坊をやさしく見つめる新米パパとママの写真・・・
彼は充分時間をかけて彼らの中に流れる甘やかな瞬間を見逃さないように心がけていた。

私はそれらを見て、その写真に数行の散文を載せることを彼に提案した。
予約するときに少し依頼主と話をしながら、具体的なエピソードを元に、私は一生懸命考えて、
注文を受けた人だけがわかる思い、それは親の思いだったり恋人への思いだったり
愛する子供への思いだったりしたがそれを写真の右下にそっと添えて装丁し、
それらは注文した人たちにとても喜んでもらえることになった。

そして私の本業・・・

私は彼のおぜんだてのおかげで思い通りに仕事ができている。
相変わらず官能を追い求めて日中は妄想する日々だ。
韓国語が操れるようになった今、私は日本で忙しくしていたコラムやら恋愛相談を一旦やめて、
2つの連載小説だけに注力することにした。
それは、義母と一緒に翻訳し、韓国語のHP、LABYRINTHに載せた私の官能小説が
一部で評判を呼び、その結果、試験的に雑誌W KOREAの「キャリア女性の恋愛事情」というTEXTを
担当するようになったこと、そしてそれを機会に韓国内の他の出版社からもコラムや、
短篇の官能小説の依頼が来るようになったのだ。

私は、私のきついスケジュールに合わせてくれた義母にも、やっと正当なギャラを払えることが嬉しかった。
韓国の出版社からはじめてのギャラをもらった時に、義母と私は、義父、彼、憲に見送られて
夕方近くに家を出て、ミョンドンで朝まで飲み明かした。

私は自分で 日本語以外の言葉を操って仕事をしていることがとても不思議だった。
それと同時に はじめて韓国で生活している、という気分に成れたような気がした。
私が韓国で仕事をすることは当初まったく考えてなかったのに、実際に仕事がはじまると
新人時代のような緊張と達成感を同時にあじわうことができた。
担当の山脇さんが言うようにいつか本業で賞を獲れたら・・・と頭のスミで思うことはあるけれど、
今はとにかく次から次へと浮かぶ構想をひとつひとつ形にしていきたいと思うだけだ。

相変わらず憲は並外れてやんちゃで、夕方迎えに行くと義父母は疲れた顔をしていることを
申し訳ないように思う。
それなのに朝、憲を我が家に迎えに来た時に、甘えたような声を出しながら
義父の胸に飛び込んで行く憲にメロメロのようだ。

そして・・・彼は確かに充実しているようだった。
彼の表情には、自信のある、いかにも一家の長・・・のような男らしさが備わってきたように思った。
しかも時折垣間見せる少年のようないたずらっぽい目線も、眉間にシワを寄せて画像の編集をしているときの
色気の漂う顔も相変わらずだ。
以前東京で一緒に暮らしていた頃の野性的な顔だちは表向き陰を潜め、私との時間・・・
ベッドでだけその表情を見せてくれているのは私しか知らない。

こういった生活を羨ましいと思ったことはないのに、運命に導かれて今こうした日々をすごしていることが
不思議だった。
彼と憲との三人の生活。
これから、私が彼を今のように愛し続けることができるのか?
彼への気持ちが変わらないか?そういうずっと遠い将来まで誓うなんてできない。

だけど・・・
彼がいろいろな国を回って答えを探したように、きっと私もこれまでの様々な経験や思いが
私の紡ぐ言葉を変えていくのだろうと思う。
それが当初私が考えていた方向とは違っていったとしても、今はそういう変化がとても楽しみに思える。

隣家で憲と義父の笑い声が聞こえる。
私はふと手を休めて、先日義母からもらった五味子茶を飲んだ。

私は左手を自分の目の前にかざすと、薬指に当たり前のように馴染んでいる指輪を見つめた。
それは彼の亡くなった両親の形見の一つだった。
父親が自分と彼の母のためにオーダーした結婚指輪。
おしゃれな父親らしく、宝石店で売っているものではなく、友人のデザイナーに頼んで作ってもらったものだと言う。
両方ともネイティブアメリカンの植物模様の彫金が施され、父親の分は大ぶりなデザイン、
母親のものは少し繊細なデザインになっていた。
彼が私を迎えに来たときに私にそれを指に嵌めてくれたのを思いだした。
私の薬指には多少サイズがゆるかったので、結婚式に間に合うようにサイズを直してもらったのだ。
結婚指輪なんて束縛そのもののように感じていたのに、私は確かにあの日、
素直にそれを彼から受け取った。

憲を生んで、彼と結婚して、私は思い通りに仕事をしている。
彼の写真集を見るたびに、私の決断が正しかったのかどうかを心に問いかけた。
私は何度も問いかけ・・・そして悩むことをやめた。


それから二年が過ぎた。
彼と憲、二人の誕生日を数日前に控えているある日曜日の午後だった。
憲は三歳になろうとしていた。
私は彼の仕事場、フォトスタジオにいた。

今日も二組の予約客が入っていて、彼はお客に合わせて朝早くからスタジオに入っていた。
連載の原稿を書き終えて、私は憲を連れて遊びに来ていた。
彼は画像の編集作業のため、お昼も摂らずに店の奥に入ったきりだった。
午後の予約のお客様はソウルの市会議員のご令嬢のお見合い写真。
それにあわせて彼は午前の仕事が終わってすぐに作業をしていた。

私は持ってきたレゴを憲に与えて、お店番をしていた。
雑然と箱の中にしまわれた依頼票をきれいにそろえ、予約順に並べる。
相変わらず予約はいつもいっぱいで、これじゃ、家族五人でチェジュドに旅行に行く計画は
実行できないじゃない!などと心配しながら、たくさんある依頼票をお店のパソコンに入力していた。

そのとき、一人の客がスタジオのドアをあけて入ってきた。
それはブルーの瞳の小太りの中年の男性だった。

「MR。LBHはいるかな?」

彼はゆっくりとした英語でそう私に尋ねた。
彼をLBHと呼ぶこの人はいったい・・・?

するとその客はなまりの強い英語で話し始めた。

「あぁ、いきなり申し訳ない。まず挨拶をしなきゃいかんな」

そう言って彼はハンチングをもじゃもじゃ頭から取りながら挨拶をした。

「はじめまして。私は カイル・シュバルツ。写真家をやってるんだ」
「先日、東ヨーロッパの仕事が終わり、休暇で韓国の写真家仲間に会いに来たんだが・・・
そこで私はこの写真集を見せられてね・・・」

そう言ってそのお客はモンゴルの写真集をバッグから取り出した。

「これを撮った写真家に会いたい。いや、彼にどうしてもやってほしい仕事がある。
私はもうそれしか考えられなくてね。友人の写真家を通じて、ここでスタジオを開いてる事を聞いたんだ」
「もしよければ・・・彼に会って直接 話をしたいんだが・・・会ってもらえるかな?」

カイル・・・?
カイル・シュバルツ???

私は頭の中でその名前を記憶の引き出しから数秒かかって取り出した。
彼が大学で写真を学び始めてからずっと憧れていたと言うドイツ人の写真家!!
私の心臓は激しい鼓動を刻み始めた。
落ち着こう、落ち着こう、と自分に必死で言い聞かせた。
私は一呼吸置いて英語でゆっくりと話した。

「はじめまして。私は彼の妻です」
「夫の写真集を気に入って下さって本当に光栄です」

そして初めて見る小太りのドイツ人を下から不思議そうにみつめる憲を抱っこすると
また彼に向きなおして言った。

「ちょっと待って下さいね! 今 夫を呼んできますから!」

私は笑顔でそう言うとほっと安心したような顔を見せるドイツ人の写真家を背にして
勇んで彼の作業場に小走りに駆け込んだ。
彼は暗室で作業をしていた。
私がドアの外から声をかけるとドアから顔を出した。

「お客様よ!」
「客? またアポなしの客か?だったら今日は6時すぎならなんとかなるかな」
彼はタオルで手を拭きながら暗室から出てきてそう言った。

「違うわよ。カイル・シュバルツさんよ。あなたの憧れの写真家の!」
「え?!」

その名前を聞いて一瞬彼はタオルの手を拭く手を止めた。

「あなたが言ったとおり、実力のある人にはやるべき仕事が向こうからやって来るものね」
「ほら、早くして!」

戸惑うような表情を浮かべる彼に私はそう言って早くスタジオに行くように言った。

私は彼を送り出すと編集作業をしていた彼の仕事道具を片付け始めた。
そして私のそばで、ぶらさがってるネガを触ろうとしている憲を制しながら言った。

「ねぇ憲・・・もし、パパがお仕事でずっとおうちに帰って来れなくなったらどうする?」
「やだ!」

憲は間髪を入れずにそう言い、レゴで作ったロケットを擬音を発しながら飛ばすマネをしていた。
そしてちらっと私を見て言った。

「でも帰ってくる?パパ」

「うん。お仕事終われば帰ってくるよ」

「じゃ、いいや。ママと~~おじいちゃんと~~おばあちゃんと~~おうちで待ってる」

最近急に上手に話せるようになった憲は歌うようにそう言った。
私は憲の子供らしい瞬時の発想の転換に吹き出してしまった。
憲をみつめたまま私は少し考えた。
そして憲の目線に合わせて中腰になった。

「そうだね。みんなで待ってようね」

そう言って私は憲を抱きしめた。





THE END







☆いや~皆様、完読感謝いたします。m( __ __ )m
終わってみればただのベタベタなメロだったでしょう(笑)
「このまんまで終わるわけないでしょ?」などとブロ友に言われると
ヒヤヒヤしたものでした。(最初からベタなメロで想定してたもんで)
最終回書き終わってるとか言いながら、放置してた20数行・・・これで何日悶々悶々・・・
中盤から女豹はいずこへ?って感じでただの気の強い女になってしまい、つくづく自分が女豹じゃないことに
気付きました。(笑)
実は、もう少しさらっとした雰囲気の構想だったんですが、ちょっと前に「MENS UNO」の彼の
インタビュー読んだときに 「よ~~~し!!ビョンホン!!私が思いっきりラブラブにしてあげます!!」
そんな傲慢な思いで、当初の構想よりもラブラブ度をあげたのでした。
12月のクリスマスの日から今日まで私も必死で書いてきましたが、
本当に最後まで読んでくださった方々、ありがとう!!
コメントを下さった方、感謝感謝です。
100%自己満足の創作ですが、それにたったひとつ共感コメントが入っただけで
自分の中では ただの自己満創作から少し格上げしたい気分になるのです。

そして・・・
りあるじゅえるさん・・・私、こんな長いの、300ページくらいですかね?はじめて書きました。
これを「書きたい!」と思わせてくれたあなたのいつくかのメール。
それらのおかげよ!!ほんとにありがとう。
何しろ、妄想することは日課でも、創作としてカタチになるかどうか、私の場合は
なかなかそこまでのエネルギーがないのですが、こうやって完結できたこと、
どれくらい感謝すればいいやら・・・m( __ __ )m
りあるじゅえるさんは、この麻里よりずっと女豹体質で、おそらくもっと迷わないような気もします。
どんな場面でもシンプルに答えを出してしなやかに生きていくことでしょう。
自称「エネルギッシュな日陰の植物」という超ナルシストな彼女ですが
本当は1ヶ月に20日くらいは具合悪いような虚弱体質(?!)
頭痛薬飲んで、おなかにカイロ貼って、エロ創作の構想に励む日々の彼女、
きっとじゅえるさんのりある女豹生活を創作にしたらすごく面白いかもしれませんよね。
創作のヒントになったあのメール、いくつかは・・・保護させていただきました。
多分覚えてないだろうな(笑)
本当にどうもアリガトウ~♪♪



さて・・・やっと創作の日々が終わり、あのセレクト写真集を注文し、借りている本を読み、
たまっているDVDも見たいわ~
いつもの週末が戻ってきそうです。

読んでくださった皆様、本当にありがとうございましたm( __ __ )m
ビョンホン・・・愛してる・・・(///▽///)テレテレ♪


PS;ちび猫さんの韓国語、読み仮名ももらってるんで別記事にしますね。
PS:レスしますね~~~16話からね~~遅くなってごめんね~
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by juno0712 | 2009-03-28 11:06 | 創作・HOME | Comments(105)

HOME23話(最終回その1)


☆コメントありがとうございます!m(__)m
ボチボチ、レスしております・・・


◎18話のレス終了しました。こちらからどうぞ~

◎17話のレス終了しました。こちらからどうぞ~

◎16話のレス終了しました。こちらからどうぞ~


HOME23話(最終回その1)


彼は大学時代の友人に頼まれて新聞社の契約社員になり、カメラマンとして記者と取材に出かけるという忙しい日々を送っていた。
新聞で採用するすべての写真に目をとおし、時にはカメラマンをたばねて指導もしていた。
時間的に不規則な仕事だったけれど、仕事が終わればうちにまっすぐ戻り、たまに連休をもらうと一日中憲と一緒に遊んでいた。

遊びながら憲をデジカメで何枚も撮っていた。
PCで私にそれを毎日見せながらいかにも楽しそうに話をしてくれる。

彼の撮った憲は本当にいい顔をしている。
やっと歩き始めた憲の好奇心旺盛な顔をした画像、抱っこをせがんで泣く寸前の顔、公園で同じような年頃の子供と遊んでるとき相手をけん制している生意気な顔・・・
どれもくるくる変わる憲の一瞬の表情をよく捉えていて、実は彼のライフワークは憲の写真を撮りつづけること?などと二人で笑いあった。

咲き誇るムクゲの前で満面の笑顔を浮かべている憲のアップの写真は、私たちの居間の一番目立つところに飾られていた。
私はこの写真が好きだった。
つかまり立ちをしている頃だったと思う。
愛らしいピンク色のムクゲの花を背景に憲はカメラを構えている父親の言葉に笑いこけている。
その写真はいつ見ても私もつられて笑ってしまう一枚だった。

時間的に不規則ながらまじめに仕事に行き、きちんと家に戻ってくる彼。
もちろん彼の撮った写真が新聞のTOPを飾ることもあったが、特にそれに達成感を感じているようには思えなかった。

あなたはこの仕事じゃ満足してないのよね・・・
私は新聞を見ながらそう思った。
私にあれだけやりたいように仕事をするようにあおっていながらあなたは?

昨日 庭で憲を遊ばせていたとき、隣家に住む義父が 義母の作った海鮮のジョンを持ってやってきた。

「ピョホナはどうだ?大人しく仕事してるか?」

義父は憲を抱っこしながら 目をぐわっと見開いたり舌を思い切りだしたりして、憲を笑わせながら私に尋ねる。

「ええ。帰って憲の顔見るのがものすごく楽しみみたいで・・・」

「そうか・・・」

体中をくすぐられてげらげら笑いながら、その手が止まるともっともっととねだる憲に答えながら義父は言った。

「おとといな。ピョホナは俺のとこ来て新聞社やめるつもりだって言ってきたんだ」

私はそれを聞いて特に驚きもしなかった。
あのモンゴルの写真集が出て、業界の中でも評判が高いことを片岡からのメールで知った。
年末の業界の大賞を獲るかもしれませんよ。と片岡は自分のことのように自慢げに言った。
まちがいなく一段ステップアップしましたね。と片岡は言い、
さすが先生の男を選ぶ目に狂いはない。と付け加えて笑っていた。

大学時代の友人に頭を下げて頼まれたにせよ、彼が私たちと一緒に暮らすことを考えて新聞社の契約カメラマンになっていること。
これは確かにおそろしくありふれた幸せな風景を私に与えてくれているけれど
プロとして「撮ること」を生業にしている彼が本当にやりたい仕事なのかどうか?
私が彼なら?

オファーがあれば、彼はまた地球の裏側でも行って、土地の人と一緒に生活して、彼らの生活を撮りたいと思っているんじゃないの?
あるいは殉職した父親のように報道写真家をめざそうと思っているのかもしれない。
実は私にそれを言いだしにくいんじゃないの?

私はプロとして高い意識を持っているはずの彼の仕事への欲を盛り下げるような女じゃない。
私と結婚して、そんなこともわかってないのだろうか?
むしろ、私たちが足かせになっているのであれば、その状況の方が拷問のように思えた。
確かに彼は最近 よく考え込んでいるのはわかっていた。

「彼はお義父さんに具体的になんか言ってたんですか?」

笑いすぎて涙を流している憲を落ち着かせて地面に立たせると義父は言った。

「なんか決めたらしいよ。どう決めたかは聞いていないけどな」

「そうですか・・・」

憲は庭をよちよちと歩き回り細い木の枝をみつけるとそれをぶんぶんと振り回していた。
ますますやんちゃになってくる憲を見ながら義父は目を細めて笑っていた。
そして私の方を見て言った。

「悪いな。あいつ、やっぱりひとつところに定住できないタイプなのかもな」

「そんなこと!お義父さん、謝る必要ないですって!予想してましたから」

そう言いながら私は思った。
例えば彼に何かオファーがあり、また偏狭の地に撮影に行く生活をし始めたら?
二年、三年、あるいは数年離れ離れの生活になったら?
私は彼を待っていられるのか?
そしてそれに慣れたら私の中で彼はどんな存在になっていくんだろう・・・
彼がいなくても平気になっていくとしたら・・・結婚生活を続ける意味があるのだろうか?
そして、そういう状況でも私は今抱いているように彼への愛を持ち続けていけるのだろうか?
世間一般のように子供がいるから待つのは妻として当たり前・・・申し訳ないけどそういった感情は私は持ち合わせていない。
彼を愛しているのか?いなくても平気なのか?ただそれだけだ。
私がこれまで男を待ったのは彼がアフリカから私を迎えに来てくれるまでの4ヶ月!
たった一度だけだ。
別々に暮らすこと・・・そういう境遇になったこともなく、また、数年離れ離れになるのであれば自分から付き合ってきた男に別れを宣告してきた私には経験したことのない生活になる。
日々の生活の中で彼と話し、微笑みをかわし、SEXをする。
その笑顔、ぬくもり、匂い、息遣い・・・それが思い出になったら・・・もう私にとっては過去の男だ。
数年はなれて暮らすことになったとしたら・・・
もちろん私はそれに同意する。
自分ではじめてその生活をやってみようと思っている。
でも・・・その結果、自分がどんなふうになっていくのか?それだけは経験したことがないのだから答えの出しようがない。
約束できないだけだ。

なかなか彼から仕事に関しての話がなく、平和に日々がすぎていった。
ある日、憲を寝かせたあと、私はモンゴルの写真集を本棚から取り出して彼の前に出した。

「たまに見ようよ。一緒に。撮影裏話、また聞かせてよ」
「これ、すごく評判いいんですってね」

彼は私から写真集を受け取ると一ページずつじっくりと見つめていた。
見ながらふふっと笑いながら何かを思い出したかのように笑っていた。

「あなたさぁ・・・新聞社やめようと思ってるんだって?」

私がいきなり切り出したその言葉に、彼は誰に聞いたの?と言う顔をして私を見た。

「え?あぁ・・・まだいつやめるかってのは未定だけど。黙っててごめん」
そう言いながら彼は私を見た。

「やりたい事がみつかったんでしょ?」
「え?うん・・・」

「今度はどこ?」
「あぶないとこじゃないよね?ずっと遠いところとか?」

不思議そうな顔で彼は私を見た。

「どこにも行かないよ」

そう言うと写真集を静かに閉じて私をまっすぐ見た。

「俺・・・写真屋やることに決めた。フォトスタジオっていうか」

「しゃ・写真屋~?」

「うん。俺 憲が生まれてから何千枚も撮っただろ?憲を抱く母親の君も」
「それ新聞社の連中に見せたら、うちの子のも撮ってくれって言われて
何人も撮ったんだよ。教文出版の連中にまで頼まれて撮ってるんだぜ。最近は」

得意げな彼の顔を見て驚いた。

「家族の歴史の一ページ、その一瞬を撮ることがすごく幸せに思えてさ」
「偏狭の地にまで行かなくても俺、撮れるじゃないかって思ったらすごく肩の荷が下りた。今頃になってやっと俺納得した。」

私は驚いて彼に言った。

「あ・あのね。あなたはお父さんの遺志をついで報道をやってみようとか、厳しい自然の中でもたくましく生きる人たちを撮りたいとか、そういう方向じゃないの?」

「いや、そのつもりはない」

彼は淡々と言葉を続けた。

「俺は君をみつけて、憲の父親になってやっとこうやって三人で韓国で暮らしはじめた。君を無理やり韓国に連れてきたしな」

そう言って私を見てほほ笑んだ。

「でも・・・」

「おかげで俺、すごく幸せなんだ。本当に」
「結婚自体あきらめかけてたのに、子供まで出来て」
「だから俺には君達と離れて暮らすなんて考えられない」
「ここが俺のHOMEだからな」

そう言って彼は最近ローライフレックスで撮った私と憲の写真をテーブルの上に広げながらしみじみと言った。

「それに・・・町の写真屋だってりっぱなカメラマンだよ。そうだろ?
俺、多分 どこのカメラマンよりいい表情撮る自信あるよ。」
「だから、金がもう少したまったら俺、新聞社の仕事をやめて物件探すよ。写真屋をやれるような」

気負いのない彼のその言葉に何て言っていいかわからなかった。

私はため息をついた。
結婚して韓国に来て、彼が新聞社の契約カメラマンになったと聞いたときから私は覚悟をしていた。
それはその仕事が一生の彼の仕事とは思えないこと。
そしていつか本当にやりたい仕事をみつけて、一人で遠くに行ってしまうだろうと言うこと。
今まで撮り続けてきた彼の写真を見ているからこそ、彼の才能の赴くままに彼はきっと望まれて出て行くに違いないと思っていた。
私と憲を残して。

私の今までつきあった男たちは一人残らず上昇志向の強い男ばかりだった。
そんな男たちの野心が私にはとつてもなく魅力的だった。
だけど、肝心の私自身も同じように上昇志向が強く、一緒に暮らす=結婚がとても無理なことにすぐ気づいたものだ。
それを上手に隠して、どこかで我慢しながらつきあいを続けても、結局うまく行ったことはなかった。
相手も引かず、私も引かない。
そんな時、男たちがふと漏らす「君の仕事をどうにかできないか?」という一言。
もちろん単純に私が仕事をやめてでもついていきたいと思えなかった男だったのかもしれない。
私はそんな一流の、あるいは一流をめざす男たちに惚れながら 同時に二人のつきあいの中ではっきりさせなくてはいけない優先順位に気づかされてきた。
そして少しずつ 愛だとおもっていた気持ちも重荷になってきた。
そして別れが来た。
だけど、別れを受け入れる代わりにそれぞれが自分のやりたいことをめざせたのだ。
私が今までの数々の別れを後悔していないのはそういうところだった。
それなのに彼は違った。
拍子抜けするほどだった。
一流の腕を持っていながら、彼の一番大事なことは私と憲と一緒に暮らすこと。
それが彼の生きる指標になっているなんて。

「一番私の苦手なタイプだ。あなたって」
「私、やっとわかった」

突然 言ったその言葉に彼は私を見た。

「あなたが今まで掛けてきた仕事への情熱って何?」
「町の写真屋が悪いだなんて言ってないわ。あなたにしかできない仕事、写真家として選ばれた才能をぽんと捨てることが気に入らないのよ!」

私は大きくため息をついた。
そう・・・私はこの手の人種が苦手だったのだ。
自分のずっとやりたかった生きがい、仕事をまるで当たり前のように、すっぱりと切り捨ててありふれた小さな幸せに固執する男が。
私の中で我慢できない何かが爆発した。

「私なんか捨てたっていいのよ!」
「憲と私なんか置き去りにして、南米でもモロッコでも行ったらどうなのよ!」
「いったいいくつ、オファーを断ったのよ!」
「それにね・・・私が今、遠慮ひとつしないで小説を書いているのに、あなたは?これじゃ不公平でしょう!?」
「私は仕事をやめないわ。だからあなただってやりたい仕事をやるべきでしょう?!」
「お互いが我慢しながらどっちかに合わせるなんて、私たち、その時点で一緒にいる意味がないでしょう?!」
「そんな拘束なんてくそくらえよ!」

私は肩で大きく息をした。
そして続けざまに言った。

「私にとって結婚なんかが人生のすべてじゃない」
「あなたが前みたいにずっと海外で写真を撮り続ける生活をしたとしたら・・・ごめんなさい。私 待ってられるかどうかわからない」
「一生添い遂げる・・・なんてあやふやな約束、私にはできない。結婚したのに無責任でごめん」
「私、こんなだからね。自分のことしか考えてないのかも」
「矛盾したこと言ってるの、私わかってるの。でもあなたも仕事第一に考えるべきよ。誰にも気兼ねしないで。あなたがそうしても私、責めないから」

私はそう言うと彼に背を向けて食器を洗い始めた。
この結婚だって衝動的に決めたことだ。
憲を生んだのだって!


私は鍋を洗いながら、もしかしたらこの結婚は失敗だったのかもしれない、そう思った。
私はこんな気持ちのままで結婚生活を続けていくことに耐えられないと思った。
私は自分のしてしまったことが無謀だったことにやっと気づいた。
彼が何も言わないまま私の背中を見つめているのを痛いほど感じる。
落ち着かない気持ちで食器を洗っている私の背中に向かって彼は静かに言った。

「俺が君と憲と三人でずっと一緒に生きていきたいっていうのは嘘じゃない。我慢でもない」
「俺の仕事のこと、考えてくれてありがとう」
「でも、俺の結論、変えるつもりはない」

彼は私にそう言うとキッチンを出て行った。
食器を全部洗い終えると私はパソコンの前に座った。
書きかけの小説の資料・・・項目ごとにつけてあるカラフルな付箋をみつめていた。
しばらくすると彼はお風呂から出てきて、おやすみ、と私に声を掛けて憲の寝ている寝室に行った。

小さくドアの閉まる音が私の背中で聞こえた。
私は自分から取り出したモンゴルの写真集を手にとってじっと見つめた。

パソコンを立ち上げると玲子からメールが来ていた。
ボストンの大学で夫婦で仲良く学生をしながらつつましくのんびりとした幸せの中にいる日々が綴られてあった。

私はそのメールを見ながら思わず返信をした。

「私、結婚 失敗したかも」

その一行を書くと送信するのを一瞬ためらったが、誰かにこの思いを吐き出さない限り、仕事ができそうになかった。
実際に何も手がつかなかった。
M出版の仕事も、新しく連載の始まったH出版の仕事も、今私は日本にいた頃のように忙しくなりはじめている。
締め切りに追われる日々が戻っていた。

私は大きくため息をついた。
考えたくなかったけれど、自然に答えが出てきた。

(日本に帰るか・・・憲連れて・・・)

そうしよう・・・

そう決めてしまうと、あわただしく韓国に来て、結婚をして、気のいい義父母に憲と二人、世話になって彼と楽しい毎日を過ごして来たことが嘘のように思える。
今はすっかり韓国語で会話できるようになって私も必死で韓国での足がかりをみつけようとしてきた。
それが中途半端に終わることが正直残念な気もしたけれど、少しはこうやって頑張ったことが何かいつかは役に立つかもしれない。
まったく役に立たなかったとしても後悔はしていない。
一生懸命だったことに変わりはないんだから。

私は誰もいない居間でぽつんとパソコンの前に座っている。
彼の撮った憲の写真、モンゴルの夕陽の写真、そして私の写真・・・
私はぐるっとそれらを見渡すと、痛いほど静かなその空間で、韓国に来て初めて孤独を感じた。

明日、彼に言おう・・・

「写真屋のあなたには魅力を感じない。だから憲を連れて帰る」

衝動的に行動する私に彼は驚くだろう。
呆れたように私を見て、説明してくれ、と詰問するに決まってる。

四の五の言う必要はない。
どう説明したって彼が一つの方向しか見てないのはわかっているのだから。

私はもう一度はぁ・・・っと大きくため息をついた。
今思えば、こうなることが遅かれ早かれ来ることを自分でわかっているのに
私はいったいどういうつもりで結婚したんだろう?
彼が家庭に拘ればそれは違う、と思い、彼が荒野に向かえば待っていられないと言う。
シンプルに生きてきたつもりなのに今更ながら自分が矛盾だらけの人間なのがよくわかった。

(林田麻里!やっぱり結婚しちゃいけない女でした!)

心の中でわざとおどけたように呟いたけれどかえって薄ら寒くなるようで苦笑した。
私が彼のすべてを理解しているか、と言えば本当のところは何もわかっていなかったのかもしれない。

でも、私には確信があった。
彼は別れをひきずってでくのぼうになるような男じゃない。
彼の才能を欲する仕事はきっとこれからもたくさんあるはずだ。
いつまでも感傷に浸って仕事が手につかない男じゃないことはわかっていた。

(さて!)

今までの生活に別れを告げる為に自分が明日からやらなくてはいけないことを、私はあれこれ考えた。
子持ちの私が仕事をしていくために、考えなくちゃいけないこと。
感傷に浸る暇はない。
明後日の締め切りをひとつ抱えた私は、原稿を遅らせるわけにはいけない。
自分が不思議なくらいハイなのがよくわかった。
真夜中になっていくに連れて構想がよどみなく湧いて私を勇気付けてくれた。
ふと手を止めるともう朝が近い時間なのに気付いた。
なんとなくぼんやりしながら時計をみつめたまま私の思考回路が一瞬ぱったりと止まった。

何も考えられないまま居間に飾られている写真をながめていた。

キミヲアイシテイル・・・
キミヲダイジニオモッテイル・・・

こんなくさいセリフは彼の口からは一度も聞いたことがないのに私は毎日そう彼から感じてきた。
私の体中はその言葉でいつの間にかすっぽりとくるまれているのだ。

(ばかだ、私・・・)
(最悪だ・・・)

東京に戻ったら、いったい自分が元通りに元気になるのにどれくらいかかるんだろう・・・
そら恐ろしくて、考えるのをやめようとしたとき、携帯が鳴った。
ボストンの玲子からだった。
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by juno0712 | 2009-03-28 11:01 | 創作・HOME | Comments(9)

HOME19話

◎大変オソクナリマシタが14話残ってた非公開「キ」さんのレスおわりました。こちらからどうぞ~
◎大変オソクナリマシタが15話のレス終わりました。こちらからどうぞ~
☆抜けてたら言ってね~m( __ __ )m


待っていて下さった皆さん、こんにちは。
秋田ビョンホン情報でお忙しいところ、こちらに、お立ち寄りの方、
ありがとうございます。m( __ __ )m
しかし・・・今回19話を書き始めましたら35ページにもなってしまい、
本日は19話 20話 21話 22話のUPでございます。
23話からが最終回となる予定です。(23.24で終わると思う)
だらだら書いてるんでしょうか?
箇条書きの構想をあーだ、こーだとエピソードを加えつつ書いてましたら
本当に長くなってしまいました。
なので、お時間のある方、よろしくお願いいたします。m( __ __ )m

だいぶ間をあけてしまってすみませんね・・・
つなぎ的要素が大半で・・・そういうの、なんか難しいんですよね。
つなぎなんだけど、意味ありげ・・・みたいな?
ア~~~~書けない!などと叫んでおりましたら、2-3名の方のメール、「早く書いて!」
これでなんとなく頑張って書く気になったのでした。単純です。
それではどうぞ~



HOME19話



私たちの新婚生活が始まった。
品川で3ヶ月暮らしてきたときとはまるで違った日々が始まった。
憲の存在。
そして隣家の叔父夫婦。
(私は彼らのことを義父、義母、と呼ぶようにしていた)
何よりも韓国での暮らし。
韓国語はまったく話せないのに、特にストレスも感じることがないことは意外だった。
11月の韓国は日本の初冬よりも確実に寒かった。
底冷えのする日もあった。
義父母の家は赤ん坊の憲を世話するために、暖かく調節されていた。
義母はさっそく憲に真っ白な毛糸でかわいいベストと帽子を作ってくれた。
白いベストを着せられた憲は少し、垢抜けない感じを受けたが、手編みのベストを着せられてる憲は確かに愛されている赤ん坊そのもので、私は義母に色違いでもう一枚編んでもらうようにお願いした。
義母は喜んであっという間に手持ちの毛糸でクリーム色と水色のベストを編んでくれた。
それぞれ少しずつデザインが変わっていて、しかもおそろいの色の帽子もセットで用意されている。
それを着た憲は相変わらず機嫌よく家族に愛想を振りまいていた。

そして不思議なことに、日本にいるときのように頭痛がひどくないことが私を安心させた。
義母も頭痛持ちだったらしく、彼女の煎じていた漢方薬を私に飲むようにすすめてくれたが、一度飲んだあの苦さが忘れられなくて、早々にお断りした。
母から電話が掛かってきた時にひどくそれを怒られたが、母に言わせればそれが頭痛によく効く漢方薬だったことと、私が薬に頼っていることを以前から心配していたせいで、私は義母にもう一度頭を下げて、憲をあずかってもらう朝に毎朝湯飲み茶碗一杯のその苦い漢方薬を顔を歪ませて飲むことになった。
私のその顔を見ながら義父が笑いながら私に何かを言っていた。
義母も一度私が断ったのに少なくとも何も顔には出さずににっこりして「毎食後に飲みなさい」と言って私に煎じた漢方薬の入ったポットを渡してくれた。
そのせいなのかどうなのか、私は韓国に来てから、少し頭痛が治まっているように思う。
環境が自分の健康状態を変えることは私も十分わかっている。
この環境は私には合っていることは確かだ。
今でもこの私が結婚したことが不思議でしょうがないのに、自分の直感は相変わらず冴えていると苦笑してしまった。

「叔父も叔母も君が アボジ、オモニって呼んでくれてること、かなり嬉しいみたいだな」

「え?だって憲にとってはおじいちゃん、おばあちゃんなのよ?あなたのその呼び方だって本当はおかしいじゃない」

「え?うん・・・でも、俺、ものごころついてからず~っと叔父ちゃん、叔母ちゃんって言い続けてきたから今更ね・・・叔父夫婦にも何も言われたことないから」

彼はそう言いながら自分の膝に抱いている憲の頭を撫でた。
憲は父親の方に顔を向けてにっこり笑いながら、わざとちくちくする顔を近づけることを父親にねだる様に彼の無精ひげにゆっくり手を伸ばした。

彼の学生時代のアルバムを見ながら私の知らない頃の彼の話をよく聞いた。
彼が中学、高校の頃の友人との話・・・馬鹿げたイタズラの話や、大学に入って写真を勉強し始めた頃のいかにも若者らしい夢に溢れた頃の話を面白おかしく話してくれた。
彼は寝室の本棚の中から一冊の写真集を出しながら私に見せてくれた。
その写真集を私に見せながら彼は言った。

「君も小説家になりたいって思ってた頃、憧れの作家っていなかった?」

「うん。いた。ずっと憧れたままよ。今でもたまに読むわよ。自分を鼓舞するためにね」

「だよね。俺もこの写真家を見つけたときは・・・バイトしながらとにかく彼の写真集を買い集めた」
「こんな写真いつか撮りたい、こんな写真家になりたいって友達とよく話してたな・・・」

そのドイツ人の写真家の写真集を一ページずつめくりながら彼はその頃を懐かしむような顔をした。
その写真集に彼が影響されているのはすぐにわかった。
数冊のその写真集は、都市の日のあたる場所、裏町、被写体は人物が多かったが、それらの風景は写真表現者としての今の彼が大切にしているドキュメント性を多分に感じさせるものだった。
その写真家の切り取るシーンは生々しい「生」そのものだった。
生への賛歌というのか、心の中の叫び出したい欲求を抱えた人々の表情・・・
同じように冷静に被写体を見つめ、その中に暖かささえ感じる彼の写真も私にとっては魅力があるように感じた。

いずれにせよ、大学時代に彼はいろんな刺激を受け、DNAの赴くまま、とでも言うのか父親のやっていた報道写真とはまったく別の方向を目指しているとは言え、写真の持つリアルさ、インパクトの強さという点では共通のものがあるように思えた。

義父母にあまり迷惑をかけないように奨学金をもらえるように頑張ったことや、バイト先の女子大生にモーションをかけて撃沈した話などを聞きながら、目の前の彼はこんなにセクシーなのに、昔は(もしかしたら私に対しても?)駆け引きなしの恋をしていたのかと想像させて私は苦笑した。
強気で、学生時代から女豹体質だった私とはまったく違う学生時代!
今更ながらこういったタイプの男性と結婚し、しかも子供までもうけていることが不思議に思った。

至極ありふれた学生時代をすごしていたとしても、少なくとも私が見てきた彼の写真は
能天気な幸せだけを切り取っているわけではない。
むしろ、悩みや葛藤、自分の力ではどうにもならないもの、そういった中で見つける小さな幸せ・・・彼に挫折があったのかどうかはわからないが、人間を撮る彼だからこそ、
キンポ空港で見た慈善団体のポスターや、新宿二丁目の裏町で彼が撮った物悲しさや切なさ、それらを敏感に感じ取れる彼は写真家としての大事な「みつめる目」を持っているのだと思った。

彼は、モンゴルで撮ってきた膨大な写真の選択と編集にとりかかっていた。
編集作業をしている教文出版から帰ってくると、憲を迎えにいくために義父の家に 直行した。
そして、憲の寝ている小さな布団に上半身を突っ込んで憲と顔をくっつけるようにしてよくうたたねすることがあった。
それを叔父に何度も起こされたり、また、一緒にご飯を食べているときに、彼の口元についているご飯粒を義母に指を指されてたしなめられたり、いわゆるスキの多い男だった。
また、キムチの入っている重いポリバケツを義母が庭の北側に動かそうとしていた時にさりげなく彼がやってあげたり、義父に言われて、テレビの映りが悪くて二階のアンテナの向きを変えているときに、階下の義父と喧嘩をするように言い合っている光景、そういったどこにでもある出来事を目の当たりにしながら私は思った。
彼らは確かに実の親子そのものだった。

私は実家の事業のせいで幼い頃からお手伝いさんの作ってくれた夕食を兄と二人で食べることが多かったせいか、結婚前はこういった毎日にもしかしたら鬱陶しさを感じてしまうのではないのかと思っていた。
どちらかと言えば、親のいないがらんとした家で、父の書斎に入り込んでその年齢では難解な本を読みながら(本当に読めていたのかどうかは忘れてしまったけれど)両親の帰りを待つような少女時代を私はすごした。
兄が私に何か文句を言っても何倍にも口答えする生意気な少女だったが、広い家で私と兄は口げんかしながらも二人でくっついて親の帰りを待つ子供時代を過ごした。
父親が亡くなってから、締め付けるようにうるさく私を拘束し始めた母親に逆らって大学からずっと一人暮らしをしてきた私が、賑やかな中に自分がこうやって馴染んでいることを思うと、私の中には家族らしい家族・・・多分、心の底でこういった家族の風景に憧れていたのかもしれない、と私は思った。

憲はそんな優しい義父母に朝の8時から夕方彼が帰ってくるまで預かってもらっていた。
憲もすぐに義父母に慣れて、毎朝隣家に憲を預ける時も嬉しそうにしていた。
私が執筆で毎日恐ろしく忙しい、と彼が義父母に伝えてあったせいか、義父母は「締め切りが近い時は憲をそのまま一晩預かってあげるから」とまで、私に言ってくれた。

彼のおかげで私は心置きなく小説の仕事ができる。
品川で憲の世話を人に頼んで仕事を続けることを考えたら今の状況は天国にいるようなものだ。
もちろん結婚しなかったとしても、与えられた状況で私はなんとかこなして行けたとは思うが、肉親の義父母が憲の面倒を喜んでみてくれている状況が本当にありがたいと思った。
私は韓国語の勉強を始めるために取り寄せた様々なパンフレットを見ながら何度もそう思った。

韓国での暮らしはこんなふうに想像以上に快適な日々だった。
ただひとつ、私の仕事を除いては。

私はつい最近H出版から依頼のあった仕事をひとつ断った。
打診があった当初は私自身、意気揚々としていたのに、結局は断ってしまったのだ。
小説家とスタートしてから7年間、私が依頼を断ったのは始めてだった。

「片岡から申し送りがあったんですが、先生の、壮大な構想・・・それ、書きませんか?」

新しく私の担当になった山脇さんからその話しがあったのは韓国に来る直前だった。

掲載はH出版の中でも販売部数の多い「A」という文芸誌。

編集会議でその路線に私を持っていこうと決めた編集長と山脇さんの判断・・・
ギャラも破格だった。
かわりに今まで書いてきたものとは質もボリュームも比べ物にならない。
私はそれを聞いたとき、どこかでは得意になっていた。
H出版が私を認めてくれていることに他ならないのだから。

今まで書いてきたものが軽いかと言われれば、けしてそうではなかったけれど、私は一応それに承諾し、書ける書けないは別として、それを少しずつ詰めて行くことになった。
私はいくつかのコラムはそのまま連載を続けることにして、他の短編やら、連載も終了すると同時に長年私が担当していた官能小説の枠を片岡の担当している新人に譲った形にし、新作はその一本にかけることにした。
だけど・・・。
実際に韓国から何度も山脇さんとメールをやり取りしたり、WEBカメラで話しあったり、時には長電話をして、何度も話をしたのだが、実際のところはまったくペンが進まなかった。
私の構想どおりに書けば面白いのだと思う。
ただ、私自身がいつかは書きたいと思っているけれど、私の構想の中のヒロインが信じて疑わない愛が何か絵空事のように現実感のないものとしてどう書き始めてもすぐに気分が萎えてしまうのだ。

愛。
永遠の愛。
相手の為に生きること。
相手の為に存在すること。
そこに至るまでの葛藤。
葛藤の後にヒロインが行き着く答え。
ここまでは私はすでに構想済みだった。

私がそれまで書いていた愛、もちろん官能的要素を強く前面に出していたのだけれど
私はそう悩まずに書いてきた。
女を圧倒的に支配する男。陵辱。あるいは分かり合えてはいるけれど密着しないドライな関係。
その多くは結果的には「幸せ」ではない結末が多かった。
山脇さんが私に書いてほしいその構想の中のヒロインは私が今までけして経験のしたことのなかった感情を持ち続ける。
私にとっては最早、宗教の域に達するような感覚だった。
永遠の愛を自分自身が信じたことがなかったからこそ、私のテーマなのだと疑わなかった。
軽くは書けない。
ましてその構想には「老い」や「死」まで盛り込んでるような壮大な物語だ。
小説家になってからずっと抱いていた構想を更に膨らませながら実際に書いてみると、私の中の消化不良な部分が文面にちらついてどうしようもなかった。
私だってこれでも作家の端くれだ。
経験したこと以外は書けないなんて甘いことは言わない。
だけど自分の中でいまだに「永遠の愛」というものが存在してることさえ疑っている私がただテクニックに任せて書いたとしても付け焼刃になることはわかっていた。
だったらすぐに断ればいいのに、自分の心の中には、どこかではこういうものを突き詰めて考えたいという思いがずっとあったのだ。
そんな思いとは裏腹に私のペンは進まず、パソコンの前でじっと考えてることが多かった。
私は山脇さんの、進捗を確認する気遣いのあるメールを放置し、返信もしないまま何日も過ぎていった。
依頼されている雑誌数種のコラムは問題なく送っていたし、それらは相変わらず反響があると言う。
山脇さんは時々私を励ますようにメールでそれを伝えてくれた。
プロットを話したときに山脇さんは絶賛してくれた。
私自身も意気揚々と書くつもりで臨んだのに、実際は一ページも書けないでいる。
彼は今までのような路線を否定することは一切言わなかったし、それを「愛の昇華」に持っていってもいい、と言ってくれたけれど私が構えすぎているのか、なんとも情けない状況だった。

考えるのをやめると、私には膨大な自由な時間ができ、皮肉にも韓国語の勉強がはかどることになった。
私は週に二回、李華大近くにある韓国語のプライベート授業に出かけ、一生懸命勉強した。
まるで書けない自分を忘れるかのように。
そして私は結局その依頼を断った。

ある休日。
編集作業を始めて十日振りに取った休みを惜しむように憲と遊んでいた彼は食事の途中で私に何かを話しかけた。
それは今編集中のモンゴルの写真集の中で彼が何枚も撮った赤ん坊の話だったのだと思うが、私は生返事をしながら食器を片付けはじめた。

「麻里・・・何 考えてる?」

気のない返事をしながらぼーっとしているのがわかったのか彼は私を見てそう言った。

「え?別に何もないわよ」

そう言う私をみつめるとお座りをするようになった憲を居間の床に座らせ、クッションを憲の背中に二、三個あてがうとキッチンに来て、私のあごをつかんで自分の方を向かせた。
彼はじっと私の顔を覗き込んで、不安げな要素をあらためて探すようにじっとみつめた。
私を見つめる彼の眼差しの強さに息苦しくなっていると彼は言った。

「二人目がほしくなったのか?・・・そうなら望むところだ」

「何よー!」

吹き出しながら私のあごを掴む彼の手を私は洗剤で泡だらけになった手で振りほどいた。
彼は笑いながら言った。

「なんにしろ、君が考え込んでて心ここにあらずってときはびっくりすること考えていそうだからな。経験済みだから」

私は笑ったまま食器を洗っていた。
彼は憲がお座りをして一人遊びをしているのを確認しながら私に尋ねた。

「で?」

私は彼の方を向いて何が?と答えた。

「なに考えてる?いや、何か心配事でもあるのか?」

真面目な顔をして彼は私の顔をまた覗き込んだ。

「あ~・・・なんでもない。韓国語ってむずかしいよね・・・」

そう言いかけて私は一瞬黙って、食器を洗い終えると手を拭きながら彼に仕事のことを話してみた。

考えてみればつきあっている男の仕事上の苦労話をまるでスナックのママのように聞いてあげることはよくあったが、私から自分の仕事のことを相談するということは、しかも書けないで悶々としていることを話すことは初めてだった。
彼は私の話を静かに聞くとしばらく考えながら口を開いた。

「君も一段ステージがあがったってことか」
彼は私の入れたコーヒーを飲みながら私を見てそう言った。

「階段踏み外したかもね?!私」

そう言って私は肩をすくめた。

「断って後悔してない?」

「うん。ぜんぜん。だって今書くタイミングじゃないことがよくわかったから」
「だけど、なんでも書けるって思ってたのに、私にも書けない仕事があるんだって思ったらちょっと悔しかったけどね」

「なるほど」
「君は今まで書いたものに自信を持ってる?」

「もちろん」

「なら心配する必要ない。君のやるべき仕事はそのうち向こうから来るはずだから」

彼の中の仕事に対しての自信。
彼は自分に依頼があってもクライアントの求めるものと自分の求めるものが一致しているか、あるいは自分の意向に相手が沿わせてくれるか、それを依頼主と話し込んで仕事を決めてきたことはよくわかっていた。

「小説家の仕事って俺にはよくわからないけれど、書き続けて・・・枯渇するってことはないのか?」
「俺にとっては7年間、一度も仕事を断らずに受けてきて、脱稿したことがないってのは驚異だね」

「そんなことないわよ。特に構想が滞るってことは一度もなかった」
「むしろ次の仕事が楽しかったもの」

「すごいな」

感心するように彼は言った。

「あなたは?被写体は数限りなくあったでしょう?撮りたいって思うものが」

「うん。でも趣味じゃないからな。クライアントの求めているものもあるから、よく相談したよ。もちろん結果的に断ったこともある」
「そんなふうにやりたい仕事をしてきたら、三年間で四日しかお前はこの家にいなかったぞ!って叔父に叱られたよ」

笑いながら彼はそう話してくれた。

「ふ~ん・・・」

「まぁ、君の様子じゃ、心配いらなそうだな。そのうちきっと君じゃなきゃできない仕事が舞い込んでくるから」

彼が経験上そうだったのか、私を慰めようとして言っているのかはよくわからなかったが
今の私はその言葉を信じようと思えた。

(素直になったかな・・・私も)

私はコーヒーを飲みながら、ディズニーのアニメを見始めた二人を見つめながら思った。
確かに山脇さんの仕事は上昇志向の強い私には魅力的な仕事だった。
だけど、数年暖めているその構想を、思いを吐き出すにはまだ私自身、答えが出ていない。
その結果、「全面的にバックアップしますから」と言ってくれたH出版の依頼を結局は断ったけれど、後悔はしてないにせよ、敗北感にも似た気持ちが私を支配していた。

その依頼を断れば・・・代わりに何かを書かせてくれるのか?それとも干されるのか、それはわからなかったが、私は山脇さんに長いメールを書いて、今の自分の心境を正直に伝えた。
山脇さんからはすぐに、私の意図を汲みその構想を長い目で見ていきましょう、と返信が来た。

私は気持ちを切り替えて韓国語の勉強に注力した。
ハングルはすぐに覚えられたが、週二回の個人レッスンで私はその中年の韓国人の女性の厳しい特訓を受け、毎日宿題まで出され、大学受験以来の語学の勉強の日々にあけくれることになった。
週二日以外のレッスン以外は家で勉強しなくてはいけなかったが、一人でこつこつと勉強するのもつまらなくて、隣家に行って憲と義母とで時間を過ごすことが多かった。

義父は晴れた日はよく近くの公園にスケッチに行くことが多く、昼までは帰ってこなかった。
義母は私が韓国語の勉強を始めたことを知っていて、どんな勉強をしているのか、とか宿題でわからなければ教えてあげると言ってくれた。
憲は義母に抱っこされながらおもちゃで遊んでいた。
義母が優しく話しかけるとまるで憲は韓国語を理解しているかのように義母を見て笑っていた。
義母は手馴れた手つきでそのおもちゃを憲の目の前で振ると今度はげらげら笑った。
笑っている憲を見ながら私も笑った。

居間に義父のスケッチブックが数冊置いてあることに気づいてそれをパラパラめくりながら私は目に飛び込んできた何枚ものデッサンに驚いた。
憲の寝顔、憲の笑顔、憲の泣き顔、不思議そうに何かをみつめている憲の顔・・・美術教師の義父らしい何枚ものデッサンだった。
私が驚いてそれを見ていると、義母が「ピョホナのもあるのよ」そう言って、奥の部屋から古びたA4サイズのスケッチブックを抱えて持ってきた。
その中の、彼が赤ん坊の頃から中学くらいまでの何十枚ものデッサンをまるでアルバムのように私は微笑みながら見つめた。

私は義父の、彼と憲を描いたデッサンを見ながら、カメラか4Bの鉛筆かは別としてやはり血は争えないと思った。
それまでは彼が写真家を目指したのは父親の血なんだろうと思っていたけれど、義父と彼もまぎれもなく人や風景、その一瞬を切り取るという同じ作業をしているのだから。

彼が写真家をめざしたときに、義父は反対したという。
それはおそらく父親のように報道を目指して命を落とすのではないか、という肉親としてのごく普通の感情はあっただろうけれど、本当は彼の仕事に自分との共通項を見出して一番彼の仕事を理解し、応援しているのは実は義父かもしれないと思った。






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by juno0712 | 2009-03-21 17:15 | 創作・HOME | Comments(6)

HOME20話


憲を抱く義母のすぐそばには赤ちゃん用の本が何冊もあった。
もちろん韓国語の乳児用の絵本だったけれど、やわらかい色合いのその本を手にとると
大きなハングルの文字で書かれた暖かい画風をしばらく見つめていた。

義母が言った。
「麻里さん、私たちが憲の世話するのに、こうして下さい。これはやめてくださいっていう注文、何もなかったね」
私はなぜ、義母がそんなふうに言うのか不思議だった。
私はまだ韓国語での会話はとても無理だったけれど、簡単な韓国語の単語をしゃべってくれたり、それがわからないと私が英語で聞き返したり、そんなふうな会話だった。

義母は続けた。

「私の同じ年代の友達もね。若夫婦が働いていて、子供の面倒を見ている人が何人もいるんだけど、みんなけっこうお嫁さんから注文があるって」
「こういうのは食べさせないで、とか、あまりテレビを見せないようにして、とかね。クラシックを聞かせてほしいとか、英語のレッスンに何時に通わせてほしいとか、大変みたいよ」

義母は憲を預かると決めたときに、こういったいくつかの注文が来ることを覚悟していたらしい。
私は吹き出してしまった。
私は後にも先にも仕事が最優先の女だ。
母にも指摘されたとおり、憲が私と二人きりの生活だったとしたら、憲はおそらくたくさん寂しい思いをしたかもしれない。
それなのに、今 憲は義父母にかわいがられ、私は執筆に専念できる。
私の与えられない隙間を埋めるどころか、憲は赤ん坊に一番大事な「かわいがられ、愛されること」を当たり前のように受けている。
こんな私は感謝することはしょっちゅうでも、「こうやって育ててくれ」とか「これはやめてくれ」だなんて言えるわけがないのに!!
私は義母に英語やジェスチャーでなんとかそれを伝えると二人で笑った。

韓国語の勉強に週二回出掛け、残りの日は義父母と憲と過ごす日々。
コラムやキャリア女性の恋愛相談、こういった副業以外は小説を書くということはしていなかったけれど、そのおかげで私は覚えたばかりの韓国語の言い回しを使って会話をするようにして、時には義父や義母に言葉の使い方が間違っていることを指摘されたり、または義母と一緒にご飯を作ったり、言葉のせいもあってなんとなく壁を感じていた彼らとももっと近い関係になれたような気がした。
もともと、優しい彼らだったが、少しずつお互いの遠慮もとれてきたように思う。
それを考えると、仕事が暇になったおかげで義父母と近くなれたことが実は私には必要だったのかもしれない・・・
前向きな私はそう考えることにした。
物は考えようなのだ。
彼の言うように私を欲する仕事が来るまでは私は韓国語を勉強し、憲や義父母と韓国での生活を楽しめばいいのだ。
今まで私が思いを込めて綴ってきたもの、それを読んで私に書いてほしい!という仕事がきっとくるはずだから。

そんなふうな生活が二ヶ月続いた頃、私はコラムを書き上げてそれを送信したときに一通のメールが届いていることに気づいた。
送信元はM出版。
今までその出版社から依頼を何度か受けたことはあったけれど、実際に仕事をしたことはなかった。
仕事が忙しく、重複した依頼の場合はH出版の仕事を優先してきたからだ。
私はそのメールを開いてみた。
それは仕事の依頼だった。

私が三年前にH出版で書いた短編を読んで、その編集担当者がぜひ書いてほしいという依頼のメールだった。
業務上のうやうやしい言葉遣いだったけれど、その構想に私は小躍りした。

ある傭兵あがりの男。
彼は複雑な生い立ちのせいで現実生活に馴染めない。
戦場での彼の独白。
戦場での悲惨な出来事。
ある女との出会い。
自分の傷を舐めるように二人だけの日々を過ごす。

以前書いた、女からの目線で描いたある男の話を痛く気に入って、その路線で書いてもらえないかという依頼だった。

面白い!
私は久々にどうしようもなく書きたい衝動に駆られた。
その男と女のやりとりが一瞬にして私の脳内をかけめぐった。
傭兵・・・
私はその単語を思い出したときにこのストーリーを無国籍な感じにしたてようと思った。

私はM出版の編集担当の池田という人に「前向きに考えたいから詳細を詰めたい」と返信した。

女・・・この陰を引きずった男に沿わせる女ね・・・
そう・・・
雰囲気はペネロペクルスみたいで・・・アジアンな感じで・・・
その女とどこかの国の酒場で出会って・・・
そうね。
その男は貪るように女を・・・

私はすぐに浮かんだ構想をメモパッドに書き始めた。

M出版と打ち合わせを何回かして、正式にその連載を受けることにした。
ちょうどいいタイミングでその仕事が舞い込んできたことで、私は、片岡が編集仲間との飲み会で私を売り込んだんだろうか?と思った。
マメな片岡は同業者ミーティングと称する飲み会に頻繁に顔を出していて、担当している作家の情報や彼自身が興味のある作家の情報をよく取り込んでいたのは知っていた。
もし、片岡が急に暇になった私のために他の出版社の担当に声をかけたのだとしても、
書きたい仕事が舞い込んできたことは確かだ。
今度片岡にメールで聞いてみようと思った。

その日から私は、週二回の韓国語のレッスンの他は集中して執筆に専念することになった。
急に忙しいことになった私を見て義母が言った。

「麻里さん・・・忙しい方がイキイキしてるね」

私は義母にそう言われて照れ笑いをした。


M出版からの仕事を始めると私は朝、憲を隣家に預けるとひたすら書いた。
まるで今まで書けなかった分をそこにぶつけるかのように。
ある日の昼、朝方まで小説を書いてぐっすりと眠っている私を彼は寝室のドアを乱暴に開けながら起こしに来た。

「麻里!これから 海だ!!海に行くぞ!」

ベッドで眠りこけていた私を揺さぶりながら彼は私に上機嫌で言った。

「・・・何?」
うっとうしそうな顔をして彼を見る私は、彼がすでに憲の着替えを用意しているのを寝ぼけ眼で見つめた。
「編集作業終わったよ!!」

「ほんと・・・?おめでとう・・・」
私はそう言いながらベッドであくびをした。

「編集長が海辺のホテル、俺たちに一泊プレゼントしてくれたんだ」
「この真冬に海辺のホテルぅ??」
「会社の提携しているホテルらしい。自分が行けなくなったから使えって」
「雪の降る海ねぇ・・・?」
「そう!とりあえずは新婚旅行の代わりに!憲も連れて!」
「え?憲も??憲も連れてくの?」

彼は大きく頷いて早く着替えるように私をせき立てた。
編集作業が終わったらどこかに一泊・・・もちろん私はそれを楽しみにしていたがまさか憲を連れていくだなんて思っていなかった私はいそいそと支度をする彼をベッドから呆然とながめていた。
義父に憲を朝預けてから、私は朝までかかってしあげた小説の第一話をM出版に送信するとシャワーもあびずにとにかくベッドに入った。
久々に書き上げた高揚感で興奮して眠れないかと思ったのに、夕方憲を向かえに行く時間に目覚まし時計をセットすると一、二分で眠りに落ち、ぐっすりと寝入っていたのだ。
半分覚醒状態のまま私は何もできずにベッドで彼を見ていた。

「麻里?ほら!早く!」
私は寝不足気味の体をベッドから起こすとシャワーを浴びた。
(あの義父母なら憲を一晩預かってくれって言ったら喜んで預かってくれそうなのに・・・)
彼の頭の中にはそんな考えは一切ないらしい。
私は苦笑すると寒さ対策を万全にするためにクローゼットの中の真冬用の衣類を探した。

義父のセダンを借りてこれから三時間もかかる海辺のホテルに親子三人で出かける。
二月の海なんてどれくらい寒いかわからない。
私は憲の荷物の中に暖かい下着と義母の編んでくれたセーターと帽子を詰め込んだ。
考えてみればはじめて出かける三人の旅だった。

その海は、彼が母親とも、義父母とも、高校の時に友人とも行ったことのある場所らしい。
私は義母が急いで作ってくれたキンパを持って車に乗り込み、後ろのチャイルドシートに
憲を座らせると車の振動が心地いいのか、すぐに寝てしまった。
後部座席をバックミラーで確認しながら彼は笑いながら言った。

「あいつ、もう眠ったよ。簡単だな」

運転している彼に私は言った。

「今、寝られると夜ずっと寝ないかもよ」

私たちは一瞬、無言で見つめあった。
そしてその後、二人とも吹き出した。
多分 そのときの私たちは同じ考えでいたと思う。
だからと言って気持ち良さそうに眠っている憲を起こすのも忍びなくて、自分からおきてくれるのを期待しながら私たちは車を走らせた。

「写真集の編集、終わったのね。おめでとう」

「ああ。自分でも満足してる。いい写真集になったと思うよ」
「いつ出版されるの?」
「一ヵ月後くらいかな?出来上がったら連絡もらうことになってる」

彼は嬉しそうにそう言った。

「次の仕事は?決まった?」
「ああ、それなんだけどね」
私は何かの宣告を聞くように彼をじっと見た。

「結婚式で久しぶりに大学時代の友人に会って、新聞社勤務のね。そいつにこの前頼まれた仕事なんだ」
「え?」
私はどきっとした。

「報道?」

「うん」

「え・・・戦場に行くの?」

彼は笑いながら言った。

「まさか!俺が頼まれたのは国内の事件に記者と一緒に撮る方」
「と言うか、その新聞社にはろくなカメラマンがいないから、指導してくれって」
「指導?!」
「そう。今はデジカメがあるから記者がデジカメ持ってついでに撮ってくるようなのも多いらしい」
「だから写真の持つインパクトを教えてあげてくれ!って言われたんだ」

彼は信号待ちをしている間、ハンドルに体を預けてそう言った。

「教えるってのは具体的に現場に行くの?それとも社内で指導?」

「現場に行ってやっぱり実際に撮らないと!」

「じゃ、新聞記者と一緒に事件があれば飛び出して行くの?!大変じゃない!」

「確かに不規則にはなるかもな。でもそいつには俺が写真家として仕事を始めた頃、何度も新聞に取り上げてもらったり、宣伝してもらったからな。あいつに頭下げられたから、ここらで恩を返さないとね」
「それに叔父にも、しばらく韓国で腰をすえて仕事できないのか?って釘さされたし」

「そうなんだ・・・」

彼の話に何か複雑な思いを抱く自分がいた。
ほっとしている自分にも気づいていた。
私は義母の作ってくれたキンパをお弁当箱から取り出すと彼の口の中に二個まとめて押し込んだ。

海に近づくと私は歓声をあげた。
歓声をあげたあと・・・海をよく見ると浜辺にはもちろん誰もいない。
波が少し高くて寂しげな光景だった。
それでも、三年ぶりくらいに海に来て、潮の香りを嗅いでみたいと思った。
執筆の仕事が忙しくて、レジャーらしいレジャーもできなかったような気がする。
私は真冬の凍えそうな海を見ながら、この前、ミョンドンに義母と買い物に出かけたときにベビー用のダウンを買っておいて本当によかったと思った。

「もうすぐ着くよ」
「憲・・・やっぱりずっと寝てたね」

私たちは顔を見合わせて苦笑した。
だけど、そのホテルの夕食はとてもおいしいらしく、久々にイタリアンかフレンチ、どちらにしようかと私たちは車の中で話し合った。

そのホテルに着くとやっと起きた憲を抱っこしてチェックインを済ませ、私たちはゴージャスな部屋に案内された。
広いリビングスペースと大きなダブルベッド。
部屋のつくりも瀟洒で、置いてある家具もセンスがよかった。
今が夏なら、最高のロケーションなのに・・・私は大きな窓から見える外の景色を見た。
どんよりと曇った真冬の空から雪がちらついていた。

私たちは憲を連れて部屋でしばらくくつろぎ、5階にあるフレンチレストランに行った。
こじゃれた雰囲気のそのレストランも季節外れなのかがらんとしていて人影はまばらだった。
そのおかげで、あちこち触ろうとする憲を止める私たちの声があまり迷惑にはならなかったことが救いだった。
私たちは赤ワインをボトルで注文し、おそらく二人では初めてのフレンチを楽しんだ。
楽しんだ・・・と言うより、とにかく憲は目の前の料理に興味津々で落ち着いて食べることもできず、かわるがわる憲を抱っこしてはもう一人が食事をする、というなんともムードのないディナータイムだった。
早々にそのお店を出ると部屋に戻り、降り続いている雪を憲に見せたり、テレビを見ながらくつろいだり、久々に私も仕事を忘れて親子の時間を楽しんだ。

車の中でぐっすりと寝ていた憲は案の定、11時過ぎになっても目がらんらんとして、ちっとも眠そうな気配がなかった。
私は朝方まで小説を書いていて疲れていたせいかあくびばかりしていた。
憲をゆっくりお風呂に入れた後、ベッドで彼と私の真ん中に憲を寝かせ、部屋を暗くしたり、私たちが寝たふりをしたのにもかかわらず一向に寝る気配がない。
私の方を向いて甘えて泣きそうな顔をしている。
憲の手をもてあそびながら私は眠さと戦っていた。

(あ~あ、せっかくの夜なのに・・・)
(これじゃ私の方が先に寝ちゃいそうだわ)

私はそう思いながらまた大あくびをした。
彼はそれを見ると私に小声で囁いた。

「俺が憲を寝かせるからもう君は寝たほうがいいよ」

私はため息をつきながら憲を彼に任せて二人に背を向けてまもなく寝入ってしまった。

どれくらい時間が経ったのだろう。
憲がばたばた動く手が私の背中にあたった感触で私は目が覚めた。
彼が憲に何かを話しかけてる声が遠くで聞こえているような気がした。
憲は私が寝入ってしまうまでおっぱいを恋しがってぐずぐずとむずかっていたのに、彼は上手に相手をしているようだ。
憲の機嫌のいい時の喃語が聞こえる。

(・・・憲・・・まだ寝てないんだ・・・)

彼はぽんぽんと体を優しくたたきながら小声で憲に話しかけている。
途中で彼があくびをするのがわかった。
私は彼が憲に話すときの優しい韓国語が好きで背中を向けたまま聴いていた。

「켄•••너•••일찍 자 주워・・・(憲・・・お前・・・早く寝てくれよ・・・)」
「모처럼 너 엄마와 러브러브한 시간을 기대했었는데•••(せっかくお前のお母さんとのらぶらぶな時間が楽しみだったのに・・・)」
「이봐요•••안돼・・・그쪽에 가 •••(ほら・・・だめだって・・・そっち行っちゃ・・・)」
「엄마는 지치고 있으니 재워 줘라(お母さんは疲れてるんだから寝かせてやれ)」

父親に体を乱暴に撫で付けられながら、憲は遊んでもらってるのが楽しいらしく、
可愛らしい笑い声が聞こえている。
韓国語を必死で勉強しているのに、ぼそぼそとつぶやく彼の言葉がどういう意味なのかはところどころしかわからなかった。
憲の発する声に合わせて同じような声を出している彼の声。
二人の声はまるで会話をしているように聞こえて私はそれを背中で聴きながらくすっと笑った。

「켄••너가 좀 더 커지면 내가 간 외국의 이야기를 해 주겠지요(憲・・・お前がもう少し大きくなったら俺が行った外国の話をしてあげるよ)」
「굉장히 석양이 멋있고, 너같은 아기가 건강하게 자라고 있어•••(すごーく夕陽がきれいで・・・お前みたいな赤ん坊が元気に育ってて・・・)」
「언젠가 함께、 너와 너의 엄마를 그 몽골에 데려 가 주고 싶어(いつか一緒に、お前とお母さんをモンゴルに連れてってあげたいよ)」

ゆっくり物語りでも聞かせるように話す彼の声に、やっと眠くなったのか、少しずつ憲の声が聞こえなくなってきた。
憲がたまにもごもごと小さく声を出すのに合わせて彼も小さく呟いた。

「너와 너의 엄마를 사랑하고 있어・・・(お前とお前のお母さんを愛してる・・・)」
「잘 자・・・(おやすみ・・・)」

私は彼の言ったその言葉だけはなぜかはっきりと聞き取れた。
背中を向けたままその彼の言葉を私は反芻していた。
その言葉は私の体のすみずみまで温かくしてくれた。
私にはいまだに言ってくれなかったその言葉が、こんなに簡単に私の胸を熱くしてくれるなんて・・・
しかも私に直接言ってくれたことはないのに、自分の子供に言ったその言葉が
かえって私の心の奥を震わせた。
私は鼻の奥がつんとしたけれど、それを気づかれないように彼の方にゆっくり振り向いた。
彼は腕枕をしながら左手でやっと眠った憲の頭を撫でていた。
その手を止めて私を見た。

「起きてたのか・・・?」
「ねぇ・・・今 なんて言った?」
「え・・・?」

彼は不思議そうに私を見つめた。

「なんて言ったの?」

もう一度彼の顔を覗き込むようにする私に彼はよくわからない・・・とでもいうような顔で

「憲におやすみって言ったんだよ」そう言った。

「違う!その前よ!」

シーっと言いながら人差し指を口元にあてると、彼は私の顔を見つめたまま思い出そうとしていた。

「あ・・・モンゴルの夕陽がきれいだから連れて行きたいって話したよ」

「ふ~ん・・・」

彼がわざとその言葉を言わないつもりなのか、何気なさすぎて本当に忘れてしまったのか
彼の表情からは読み取れなかった。

「ねぇ・・・どうしても私には言わないつもり?」

「何を?」

まったくポーカーフェイスもいいとこだ。
私は憲を起こさないように注意しながら、彼の腿の上に馬乗りになった。
彼は呆れたようにまたがる私を下から見上げて言った。

「新婚旅行ってことは今日はとりあえず初夜のやり直しだろ?」
「初夜に花嫁に馬乗りにされる夫ってそういないと思うな」

彼は私を下から見上げながらくくっと笑った。
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by juno0712 | 2009-03-21 17:10 | 創作・HOME | Comments(11)

HOME21話

私は彼の髪の毛に手を差し入れてその野性的な唇にキスをする。

彼が私のキスに応えてくれる。
お互い舌を絡ませあうと私は彼の固くなった下半身をはっきりと感じた。
私は唇を離すと上から彼をみつめた。
彼のTシャツを脱がし、胸の隆起を掌でゆっくり撫でた。
そして小さな突起を舌で転がすように愛撫すると彼が小さく呻いた。

私が彼の下着に手をかけたときにすぐ隣で寝ている憲が急に泣き出してしまった。
私たちははっとしてお互いの動きを止めて、憲を見た。

憲は何か夢を見ているのかか細い泣き声を発している。
彼は私が半分おろしかけた下着を上にあげるとぽんぽんとやさしく憲の体を叩いていた。
彼はいつの間にか、憲のあやしかたが私よりも上手になっていた。
段々おちついたのか、憲の泣き声がしなくなり、また静かに寝息を立て始めた。

「上手ね。相変わらず」

彼は憲を起こさないようにベッドを動いて、私にベッドから降りるように手で合図した。
ベッドの下は分厚いじゅうたんが敷き詰められている。
彼はベッドから一枚慎重に毛布を剥ぎ取ると床に敷いた。

「ここならどんなに振動しても大丈夫だろう?」

小声で言う彼の言葉に私はくすっと笑った。
彼は私を床に敷いた毛布の上に仰向けに寝かせるとシルクのナイトウエアをするすると脱がせ始める。
私は上半身裸になって彼を下から見上げた。
さっきまで、私は彼の上で馬乗りになっていたのに、そうはさせないと言わんばかりに彼の目が光っている。
私は彼のそんな目が好きだった。
いつだってぞくぞくした。
これからはじまる・・・情熱的な彼のまなざしをみつめながら私は彼の首の後ろに手を回して彼の顔を近づけた。

彼が好きだ。
私が彼と結婚することに決めたことはそう熟慮したわけじゃない。
アフリカに行く前の晩に彼に自分から結婚する、と彼に言った時の衝動的な思い。
今までの男とのつきあいで感じるような躊躇はひとつも感じなかった。

どうしてだろう?

多分・・・彼が死んでしまうかもしれないという恐れ・・・
彼が戻ってくるなら、結婚を選ぶことは大したことじゃない・・・そう思った。

生まれてくる子供のために結婚を決めた彼の気持ちよりも
多分、私の思いは・・・純粋に彼だけを見ていたんだと思う。

私を見つめる彼の瞳の奥のにぶい光。
私のあごをそっと上向きにさせて彼の唇で私の唇を覆う。
舌を絡め合わせながら私は両手を彼の背中に回した。
彼の手は私の胸元に下りてきて、その大きな掌で強く揉みしだき始めた。
キスを繰り返しながら私たちはお互いの喘ぎを聞いている。
舌先を固く尖らせて私のあごの下にゆっくり這わせていく。
私は彼の舌先が早く私の乳房に届くように胸を逸らせて彼に与えた。
胸の先端に彼の舌が届くと私の口からは間断なく小さな喘ぎが漏れた。
舌先で転がすようにしながら彼の左手はもう片方の乳房をもみしだいている。

いつもの時と違って私は彼を早く受け入れたくて、感じたくてしょうがなかった。
もっと乱暴に扱ってほしいと思った。
彼の背中に回された手を振り解いて床の上に這わせたり、私の足で彼の腰を挟んだり
あげくの果てに腰をはずませて彼と少しでも密着するようにしたり
いつもの何倍も私が彼を欲していることを彼に伝えた。

「早く・・・お願い・・・」

今日の彼は少し意地悪だった。
わざと私の感じるポイントをゆっくり愛撫する。
乳首への舌先の愛撫も、私の奥まった場所への指の這わせ方も彼はゆっくりそっと残酷に責めていた。
この意識が無くなってしまうまで彼はそうやって私を責め続けるのだろうか?
私の神経はずっとさっきから真ん中の一点に集中しているというのに。
私の肌は少し汗ばんできていて、体中からメスの匂いを発していた。
私ははぁはぁと荒い息の中で彼を見た。
彼も私をじっと見ていた。

そのまなざしに応えるように、彼は私の腰の下に手を回し二人の腰を密着させた。
彼の固くなったオスが私の中心に触れている。
私はそれに手を伸ばして彼のカタチをなぞる。
すると彼は、体を起こすと私の両足を高く抱え上げた。
私の足首がむなしく宙を描いた。
そして彼は前のめりになってぐっと私の中に彼を挿入させた。

「あぁっ!」

思わず声を出してしまった私の口元を彼は右手でそっと塞いだ。
私たちはベッドの上の憲を見た。
憲は何も気づかずに眠ったままのようだ。

彼はふふっと笑うともう一度私の中にゆっくりと入ってきた。
そして私の顔の横に両肘をついて顔をすぐ目の前に近づけて何かを囁いた。

そしてキスをしながら腰を前後に動かし始めた。
私は口から思わず漏れてしまう喘ぎを頭のどこかで気づいていたけれど
それを止めることはできなかった。
白い喉をのけぞらせ、私は床に敷いた毛布を掴んだ。
彼に合わせて私も腰を動かし始める。
タイミングがぴったりと合ってくると彼の口からも喘ぎ声が漏れた。
そして私の上半身に自分の体を沿わせて強く抱きしめてきた。
揺らされたまま、顔を上に上げて呻いている彼を私は見上げた。
彼も感じている・・・そう思ったのと同時に彼は一番深いところまで一気に腰を突き動かした。
そして私たちは同時に果てた。
彼は私から体を離すと私の隣に横になった。
私を後ろから覆いかぶさるように抱きしめてきた。

はぁはぁと呼吸を整えている私を彼は私の両脇に手を入れて体を入れ替えた。
体を起こしている彼に後ろ抱きにされ、私は頭をそのまま彼の胸にあずけ息を整えていた。
ぎゅっと私を後ろから抱きしめる彼から逃れるように体をくねらせると、彼は私のあごをしっかりつかんで自分の方に向けた。
そしてその野性的な唇で私にキスをする。
強く首を彼の方に向けているので私は体をずりあげて抵抗しようとした。
彼はそれを許してくれなかった。
後ろから私の乳房を揉みしだき、先端をつまんだりさすったりしていた。
すると、あごを掴んでいた手を離すとその手をすっと下の方に降ろしていった。
耳たぶを甘く噛み、そのまま舌先を耳に這わせている。

「ぁぁん・・・」

彼の手は乳房と私の下半身と、両方の手を器用に動かし、まるで楽器を奏でるようにリズミカルに動いた。
彼の指で、彼の手で、彼のくちびるで私は泣くように声を発した。
今日は彼を征服するつもりだったのに、今日の彼はひとつも私に余裕を与えてくれなかった。

モンゴルの写真集の編集が終わったせいなのかもしれない。
今日の彼は私を完全に征服し、主導権を握っている。
彼が私の体中を這わせる手に何度もイカされ、私が声をあげようとすると彼に手で口をふさがれた。
そして濡れてしまっている私のメスを指で蹂躙し続けたあと、少し乱暴に私を毛布の上に四つんばいにして
背後から入ってきた。

「あっぅぅ!!」

腰に手を添えて彼が私に後ろから覆いかぶさってくる。
奥深く進入して来た熱い塊は私を大きくのけぞらせた。
感じすぎてどうしていいのかわからない。
荒っぽい手つきで揉みしだかれた乳房が彼の腰のリズムに合わせて揺れた。


翌朝、私たちは憲の泣き声で目を覚ました。
床に一枚毛布を敷いた上でそのまま眠ってしまった私と彼はまるでプレイリードッグの様に二人とも体を起こしてベッドの上の憲を見た。
憲は私たちがぴょこんと顔を出して自分を見ているのを横目で見ながら更に泣き出した。
彼が全裸のままベッドから憲を抱っこして床の寝床に連れてくると、私たちは川の字になって寝転んだ。
憲は全裸の二人の間でやっと泣き止んだ。

「まさか、今日のこと、憲おぼえてないよな」
「まさか!全裸の両親の間で抱っこされてただなんて、7ヶ月の赤ん坊の頃のこと覚えてるわけないわよ!」
「そうだよな・・・」

そう言いながら彼は憲を裸の胸に抱きしめながら頬ずりした。
チクチクするその髭に憲は顔をしかめてくすぐったそうにしていた。
彼は私の冷たい肩に気づくと、そこにちゅっとキスをし、ベッドの毛布をもう一枚ずるずると引きずりこんで私たちの頭からすっぽりかけると、憲を挟むようにして私の肩を抱きしめた。
憲は彼の裸の胸と私のやわらかい乳房に体を挟まれてきゃっきゃっと声をあげて笑った。
私たちは頭から毛布をかぶって暗闇の中で子供のようにじゃれあった。
彼が私の後頭部を自分の方に引き寄せて私にキスをしてきた。
私は思いがけない熱いキスに彼の背中に手を伸ばしてそのキスを受け入れると舌を絡めあいはじめた。
すると憲が私たちの体に挟まれて窮屈なのと暗闇の中が怖かったのとで、ぐずぐずと泣き出してしまった。
毛布をぱっとはがして私たちは憲に笑いながら謝った。

急に激しく振ってきた雪のせいで外にも出かけられず、ゆっくり朝食を済ませ、チェックアウトしてからもしばらく私たちはホテルの中で外を見ていた。
三時過ぎにやっと雪が収まり、ダウンを着た彼の胸の中に、帽子をかぶせベビー用のダウンを着せた重装備の憲を抱っこして海辺に出た。

灰色の雲の下の冬の海。
凪いでいる穏やかな海ではなく、白波があちこちで立っていた。
それを見るだけでも寒そうに思えた。
耳をそばだてると波の音がごーごーと鳴っていた。
彼は海が見えるように憲に言葉をかけると体の向きを変えてあげた。
さっきまで降っていた雪のせいであたりは少し雪が積もっている。
憲は静かに海を見ていた。
父親のダウンの中でカンガルーのように抱っこされて、少し顔を出した憲は自分の頬にあたる冷たい風に目を細めていた。
私たちも何も言わずに海を見ていた。

「憲・・・今度あったかくなったらもう一度三人で海に来ような」

彼が憲に話しかけると憲は父親を見上げてまたじっと海を見ていた。


一泊の旅行から帰ると彼の新しい仕事、友人の新聞社での仕事が始まった。
基本的には朝出勤し、社内でとりあげる写真の仕上げを最終チェックし、報道関係の写真は彼自身が現場で撮ることもあった。
悲惨な事件や、国家的行事の記録、彼は乞われるまま、あらゆるシーンの写真を撮っているようだった。
忙しいけれど、報道は報道なりに勉強になる、と彼はその仕事に満足していたようだった。その友人は、本当は写真家の彼にこういった仕事をさせることを申し訳なく思っていたらしく、彼には「お前がやりたい仕事がみつかったらいつでも俺のところはやめていいから」そう言われたらしい。
彼は今まであまり使わなかったデジタルの一眼レフが面白くて、報道ならではのインパクトやリアルさをいかに伝えられるか勉強になる、と満足げに言っていた。
反面、デジタルを使い始めたからこそ、自分がフィルムに拘って撮り続けてきたことを反芻し、これからも多分それは同じだな・・・寝室のカメラの手入れをしながら彼はそう言った。


私はM出版の連載に注力し、韓国語に精を出した。
今までよりも必死で韓国語を勉強した。
夜中まで小説を書き、気分を変えるために韓国語のテキストを開いて、わからないところは隣家に行って、発音や文法を義母に聞きながら、言い回しが間違えていれば直してもらった。
段々韓国語を理解できるようになるとなるべく彼とも義父母との会話も韓国語で話すように努めた。
私は言葉を習得することがやっと楽しくなってきた。
M出版の連載も評判がいいらしい。
H出版以外の他社で仕事をするのは今まであまりなかったけれど、タイミングがよかったのか、この依頼があって本当によかったと思った。
あとはコラムがいくつか。
今まで連載をいくつか同時進行で進めていたのでそれに韓国語の勉強が加わる程度は昔の忙しさに比べたら大したことではなかった。

ある日、彼が大きな包みを抱えて会社から戻ってきた。
その包みを丁寧に開けるとそれは刷り上ったばかりのモンゴルの写真集だった。

「あ!できたんだ・・・」

「うん。教文出版の担当が今日新聞社の俺のところに興奮しながら持ってきてくれた」

私はそのB4サイズの重い写真集を手に取った。
装丁はモンゴルの草原。
よくみると表紙の右側に小さく羊飼いの少年が写っている。
ページをあけていくと、彼がモンゴルで生活をしてきた7ヶ月間の日々が私の目の前に広がった。

ダルハディンという一家のそれぞれの仕事の風景を撮ったシーン。
夫と何か話しながら照れくさそうに笑っている若い嫁。
彼女はみんなの食事を作っていた。
その食事が始まる前の家族の祈り。
寝床で横になっていた長老を中心にしたその写真は彼が私にくれた手紙の中で書いてきた光景だった。
私はあの手紙を思い出しながらあの時自分が感じた複雑な思いが胸の中を駆け巡った。

地平線の上にぽっかり浮かんだ大きな夕日の写真。
その夕日の写真をよくみると、オレンジ色に染まっただだっぴろい草原にぽつんと野生のロバが一頭小さくたたずんでいる。
私はそのろばのかわいらしい顔つきを見てつい微笑んだ。

「そーっと近づいて・・・200ミリのレンズにコンバーターをつけて膝を落として構えたんだ」
「そいつはまったく動かなくてね」
「俺が慎重に何枚か写真を撮ったら、礼を言うみたいに去っていったよ」

彼は私が見ているそばでこうやって解説をしてくれた。
その写真集はひたすら撮り手を感じさせない、あまりにも自然な光景だった。
彼はきっといつものように誠実に彼らに接し、いつしかダルハディンの家族も彼がカメラを持って撮っていることが当たり前のようになったんだろうと思った。
とてつもなく広い草原の中で暮らしている遊牧民の彼ら。
その中に、夕暮れの写真だったが、雲の切れ目から差し込む光が印象的な一枚があった。
その夕暮れに染まった草原でらくだの手入れをしている彼らは一日の仕事を終えて仲間同士で満足げに語り合っていた。
そして最期を迎えた長老の死の写真。
彼らは死を悼み、厳かに弔う。
それなのに、そういった「死」さえも 大きな自然の中のひとつ、として悲しいだけの光景ではないように感じた。
「信仰」に近いもの・・・
先祖の元に仲間入りをして家族を見守る側になること。
シンプルな生活の中の揺ぎ無いもの。
私の仕事は「言葉」ですべてを表すけれど、彼は言葉では言い尽くせない説得力と静かな感動を私に訴えかけてくる。

私はただ次々とページをめくり何も考えないで彼の写真を見ているのに、
モンゴルで彼が感じた様々な思いを一緒に感じているような気がした。
そう。
彼の写真のたくさんの魅力のひとつには「深い共感」があるのだ。
その写真のどれかに、見ている者は彼の思いを共感しあい、暖かな気持ちにさせられるのだ。

生まれたばかりの赤ん坊の写真もあった。
若い母親は幸せそうな顔で母乳を与えている。
赤ん坊は母親をみつめたまま乳首を思い切り咥えておいしそうにお乳を飲んでいる。
姑なのか、母親なのか、まわりでかいがいしく中年の女性が世話をやいているような写真だった。
何枚もの彼の写真をみつめながら私はその世界に浸っていた。

百ページ近くあるその写真集を見終わると、これまで撮ってきた彼の写真のどれよりも
穏やかで優しい彼の目線を感じた。
以前から暖かさは常に感じていたけれど、東京の裏町を撮った時のクールな切り取り方とはちがって、全編が何かに突き動かされたかのように作風が変わっていた。

そして巻末を見ると、小さな写真があった。
シルエット描写の彼。
沈む直前の太陽を背に、彼はカメラを抱えてそこに立っていた。
顔ははっきりとはわからなかった。
そしてその写真の下には彼の一文が載っていた。

「・・・に捧げる」

その不思議なタイトルに惹かれて私はその下に続く文章を読んだ。




「・・・に捧げる」

360度見渡せる草原に私は立っている。
ダルハディンの長老の一家に別れをつげて。

7ヶ月の長い旅の中で
数々の思いを閉じ込めたニコンF3のファインダーを覗いてみた。

私を抱くこともなくチリに消えた父へ。
仲間の歌うホーミーの調べに微笑んでいたサムワカートへ。
そして今彼らのいる世界に旅立とうとしている愛する友へ。

生と死の束の間の邂逅。
このモンゴルの草原のことを私は忘れないと思う。


・・・ふとあの時の虚無感と高揚感の狭間で揺れていた私を
現実に引き戻してくれた存在。
私はたった今、一緒に見た恋愛映画に辛らつな批評を浴びせる妻に苦笑し、
我が子Kenの温かさをリアルに感じながら胸に抱きしめた。

                   2009年2月10日 LBH





私はその巻末の文章を読むとじっと彼の画像をみつめた。

(この「愛する友」って私のこと・・・?)

何か言葉を捜したが、なんて言っていいかわからなかった。
私は・・・

「どうした?」

無言でその巻末を見つめている私に彼が言った。

「その写真、サムワカートの孫にデジカメを渡したら面白がって俺を撮ったんだ」
「面白い写真だろう?」

一緒になって少し笑ったがどう言葉をつなげばいいんだろう。

「サムワカート・・・って長老のこと?」

「そう。撮影の合間に亡くなった」

「そうだったよね・・・」

彼が話を続けた。

「愛する友・・・ってのは君のことだ」

私は何も言わずに黙っていた。

「俺、撮影中はよくメモ程度に日記をつけてるんだ」
「カメラは何を使った、とか絞りが甘かったとか、この場所は時間を変えた方がいいとか」
「それ以外にも、何か感じたことはなんでも手帳に書いておくようにしてたんだ」
「巻末の文章は『・・・モンゴルの草原のことを忘れないと思う』ってところまでは最後の日に書いてあったメモからそのまま使ったんだ。最初から巻末の文章はそれを使うつもりだった」
「俺はその思いを感じながら撮ってたから」

「でも、編集が終わって、最後に巻末の原稿を渡すときに、現実の俺を付け加えといた」
「君と憲のいる俺の幸せな光景をね」
「くさく決めすぎたかな」

彼は少し照れながら私に言った。
私は軽く首を振って微笑んだ。


(あなたはどうしてそんなに優しいの?)
(私はあなたにこのまま甘えていていいの?)
(私・・・あなたを本当に幸せにしてあげてる・・・?)

「どうした?」

不思議そうに私に聞く彼に、何も言わないまま、私は彼の胸に頭を預けた。
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by juno0712 | 2009-03-21 17:04 | 創作・HOME | Comments(10)

HOME22話


私は毎日M出版の連載に明け暮れ、韓国語の勉強を更にすすめた。
そして勉強を始めて六ヶ月ほどで私はその個人レッスンをいったん卒業することになった。
大体会話はわかるようになると、以前から思っていたことを始めることにした。

私が日本で出版してきた過去の私の小説を韓国語に翻訳してHPに載せること。
短編を二編ほど韓国語に訳し始めるとそれは韓国語の勉強をするものにとってはとても役立つことにはなるけれど、ネイティブな韓国人が読んだ時に違和感なく翻訳されているのかはさらさら自信がなかった。

翻訳機にかけたような文章はとても載せられない。
かと言って専門家に発注するほどのことでもない。自分のHPに載せてみて反響を調べるだけなのだから。

「翻訳の仕上げは叔母に頼んでみればいい」

彼に相談すると彼はあっさりとそう言った。

「お義母さん?!」

「国語教師をしてたし、叔母は今でも読書家だ。君のニュアンスを伝えればちゃんときれいに整えてくれると思うよ」

「でも・・・いいの?私の小説の内容って・・・官能だらけよ?」

それは大した問題じゃない、とでもでも言うように彼は着替えをしている。
私は彼を見送り、憲を預けに隣家に言った時にその話を義母にもちかけてみようかと
迷っていた。
義父はスケッチに出かけたらしく不在だった。
私は勇気を出して義母に話をしてみた。
すると義母はうれしそうに言った。

「麻里さんの恋愛小説、読んでみたかったのよ。うれしい。ぜひやらせて」

「一応は粗く韓国語には訳してみたんですけど、読んでて変なところあるか指摘してくださいね」
「もし、わからなかったら私、なんとか説明しますから」

義母が嬉しそうにしているのに助けられて私は自分の家に戻り原稿を持ってきた。
それを義母に渡すと喜んで彼女は受け取り早速読み始めた。
私は憲と遊んでいた。

「うわぁ・・・よく書けてる・・・」
「あ、これ、言葉がちょっと違うね・・・」

ぶつぶつ言いながら義母は楽しそうに読み進めている。
しばらく読み進めていた義母は突然めがねに手をかけた。

「え・・・?」

「ええ??!!」

義母は口元を片手でふさいで目を見開いた。

「お義母さん!なんか変ですか?どこ?」

「屈曲位・・・って・・・」

義母はわたしを見ながら驚いた顔でそう言った。

「あ~!ごめんなさい。このお話し、そんな言葉たくさん使ったかもしれない」

私は覚悟を決めて話し始めた。

「お義母さん・・・隠してたわけじゃないんですけど、私の書いてるのは、こういう種類のものなんです。官能小説というか・・・いえ、そこだけじゃないですよ。もちろん官能部分を際立たせていますけど。あ!もちろん彼はそのこと、知ってます」

そう言って義母を見ると、彼女は更に先を読んだらしく、激しいSEX描写にびっくりしていたようだった。

「実は私、今まで書いたものを韓国語に翻訳してHPに載せて公開してみようかと思って・・・」
「韓国語の会話はこうやってなんとかできるようにはなったんですが、翻訳するとなるとやっぱりまだまだ全然、無理なんですよね」
「どうしようかって思ってたら彼がお義母さんに頼んでみればって・・・」
「ピョホナが・・・?」

私はこくんとうなづいた。

「お義母さん・・・私の小説の内容、お義母さんからしたらとんでもないものかもしれませんよね?」
「こういうタイプの読み物、受け入れられないっていう人、いると思うんです。もしお義母さんがそうだったとしても・・・このラフな翻訳、きれいに直していただきたいんです。やってもらえませんか?」

私は義母の目を見て真剣な顔で言った。

「作品に共感してほしい・・・とまでは望みません。もちろん読んでいて面白い、って言われた方が嬉しいけど」
「もちろんギャラはお支払いします。翻訳を専門家に依頼したらすごく高いんです。私のは試験的にHPで公開するだけだから、そんなにお金をかけられないし。でもお義母さんにはちゃんとお支払いしますから。何時間も拘束するし、自分の中では〆ももうけてるから」
「文学的な表現とか、ニュアンスとか、そういうの話し合いながら進めていく為にもお義母さんがこれ、引き受けてくれたらすごくありがたいんですけど・・・だめですか??」

義母は黙ったままだった。

「お義母さんの世代じゃ、固まってしまうのも無理ないですよね。いまだにうちの母にだってこんな系統のを私が書いてるって告白してないんです」

「え?そうなの?」

私は照れくさそうにうなづいた。

「私の書いたもの、韓国の人にどんな風に受け止められるのか?ちょっと試したくなって・・・」

私がそう言うと義母はしばらく考え込んでいた。

「麻里さん・・・」

義母は大きくため息をつくと口を開いた。
その原稿をじっとみつめながら
「できるかどうかわからないけどやってみるね・・・。内容には正直びっくりしたけど、きれいな韓国語に直すっていう仕事をやってみたいと思うから」
「そう、私、こういう仕事多分好きだから」

義母は自分に言い聞かせるようにそう言った。

それから私はM出版の連載を書き、それ以外の時間は義母と私の小説の翻訳のことで打ち合わせをするという、かなり忙しい時間を過ごすことになった。
義父には内緒にしているらしく、「韓国語の上級者コースのための勉強を手助けしてる」と言う理由で私の家に入り浸ることになった。

一ヶ月という期限を切って私の選んだ二編の翻訳を義母に依頼すると、義母は最初から
真剣に取り組んでくれた。
私がラフに訳したものを一フレーズずつ義母がさらってくれるのだ。
最初は単刀直入に私に言えなくて恥ずかしそうにしていた義母だったが慣れというのは恐ろしいものだ。

「麻里さん、この男なんだけど。女の乳房をわしづかみにしたまま、腰つきがどうの、って書いてるけどどんなふうになってるの?」

そんなふうに義母に言われるとストレートに言うのにこちらが照れてしまうこともあったけれど、とにかく義母がその気になっている以上、私も真剣に答えた。

「あ~お義母さん、その男、挿入してますから。女を上にして。ごめんなさい。書き方が悪くて」

「あ、挿入ね。なるほど」

平気な顔でそういう義母を私は苦笑しながら見つめた。

そして私は本業を執筆する傍ら、韓国語のHP「LABYRINTH(미궁)」を立ち上げた。
彼に頼れば韓国内のマスコミに告知してもらうという手もあったけれど、そんな術をまったく使わず、自分の書いたものがどれくらい反響があるのか?それともまったくないのか?それをみたかった。
理不尽にHPを荒らされては面倒なので、コメント欄も設けず、管理人の私との連絡方法も一切出さず、ただ一方的な発信というスタイルをとった。
韓国の人たちがこの迷宮に入り込んで抜け出せないようになってくれればいい・・・
私はそれを楽しみにしながらアクセスを見守った。
最初の一週間、アクセスはほとんどなかった。
そして二週目・・・アクセスは急に増えるようになった。
解析をしてみると同じ人が何度もアクセスしていることがわかった。
年齢層は30代が一番多い。
義母にもそれを伝え、しばらくあのままにしてもっと多くなってきたらまた三篇目を一緒に翻訳することにした。

M出版から請けた仕事も佳境に入り、私はしばらくそちらにかかりきりでHPを覗くことをしなかった。
ある日久しぶりにHPを覗いてみるとアクセスがここのところ急激にはねあがっていたのを知って驚いてしまった。
急に増えたのはどうしてなのかを探ってみるといくつかのブログで紹介されたことを知った。
義母にそれを伝えるとアクセスのグラフを見ながら喜んでくれた。
私は手ごたえを感じた。

(韓国でもイケるかもね)
(三篇目以降は課金するようにするかな・・・)
(今度はどれを翻訳しようか・・・)


彼に話すとその反響の大きさに驚いたようで、一緒に喜んでくれた。
HPという手段ではあったがまるで初めて出版した本が売れた時と同じ感動を私は味わっていた。
そうやって私は、M出版の仕事やコラムのほかにも、山脇さんに新たに頼まれた官能小説も加わり、日本にいた頃のように忙しくなって行った。


最終回へ続く・・・




お疲れ様でした~~!!!
本当に長い時間拘束してしまいましたね。
読んでいただきありがとうございます。m( __ __ )m

20話の彼の韓国語の言葉は、チビ猫さんにお願いしたものです。
なんと依頼したのが1/28、非コメで訳を書き込んで下さったのが1/29!!
すごく忙しいのにあっという間に訳が来てびっくりしました!!!
チビ猫さん、本当にどうもありがとうございました!!
私、個人的にあのシーン、好きなんです(´▽`)
皆様にも喜んでいただけたら嬉しいです。

さて・・・やっとここまで来ました。
次回はいよいよ最終回です。
23話と24話になる予定です。

最後までぜひ、読んで下さいね!!

(あ!秋田も気になりますよね?秋田のリアルビョン、私も気がちりますわ・・・)

では、ラスト、頑張ります!!
読んでいただき、ありがとう~~~♪♪♪るんるん~

私もあの会話のシーン2月のはじめころにはUPできるだろうと思ってたんだった・・・
あ!こはなっちリクエストシーン、入れときました。m( __ __ )m
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by juno0712 | 2009-03-21 17:01 | 創作・HOME | Comments(50)

HOME17話



HOME17話


タクシーで30分ほどで到着したソウルの郊外。
私たちは叔父夫婦の家に到着した。
二階建てのこじんまりとした家の前にタクシーで着くと、家の中から初老の夫婦が出てきた。
彼らはにこにこしながら近づいてくる。
彼の顔を見て叔父は「ピョホナ!」と声を掛け、目の前で彼の抱く憲の顔を覗き込んで歓声をあげた。
そして彼らは私の方を向いて丁寧に頭を下げた。
彼が私を紹介すると、彼らはうん、うん、と頷きながらにこやかに私の両手を取って早口の韓国語で何かを話している。

憲は叔父に抱っこされるとにっこりと笑った。
人見知りをまだしない憲は抱っこされるのが大好きだった。
叔父の抱く憲の顔を見ながら叔母は彼と憲の顔を見比べながら笑っていた。
先月、最初に私のところに来た時、彼は憲の顔を何枚もデジカメで撮って行ったのですでに憲の顔は知っていたと思うが実際に憲を間近に見て二人が瓜二つの顔をしているのを感慨深げに興奮して話していた。

叔父がゆっくりとした英語で言った。

「麻里さん、本当によく来てくれたね」

飛行機の中で聞いていたが、彼が中学のときに亡くなった母も、母の兄である叔父も、そして叔母も皆、教師だった。
母親は小学校の教師、叔父は高校の美術の教師、叔母は高校の国語の教師・・・
早くに亡くなった父親以外は堅い職業の家族の中で育った割に、彼はいつも自由な雰囲気がした。
ただ、私よりはずっと堅実なことは確かだと思う。
彼が言うには一般常識くらいの英語は二人ともわかるから、と言うことだった。
韓国人と日本人が対峙して、英語でなんとかコミュニケーションが取れるだけでも助かった。
変なシチュエーションには違いないが、何も通じないよりどんなに助かったか!
私はなるべく早く韓国語をマスターする!と心の中で誓った。

私は即席で覚えた韓国語を彼らに言った。
「チョウム ブェッゲスムニダ(はじめまして)」
「ナウィ イルムン ハヤシダマリ イムニダ(林田麻里です)」

その韓国語に叔父夫婦は相好を崩して大きく頷きながら私たちを家に入るように言ってくれた。

居間に通されて、ソファに座ると叔母がお茶を用意するために台所に行った。
居間の壁の一角に彼が幼い頃の写真がたくさん飾ってある。
その顔を見て私はびっくりして彼を見て笑った。
彼の幼い頃の顔立ちは憲の顔と瓜二つだったのだ。

まっすぐレンズに顔を向けて口をぎゅっとつむいで子犬を抱っこしている写真。
おめかしして、スーツを着てる!
目を見開いて白いベビー服を着ている赤ん坊の頃の写真などはまるで憲がそこにいるようで驚いてしまった。
少年の頃の、友人と撮った写真もあった。
おかっぱの写真も。
そしてその隣には新しく仲間入りした憲の一ヶ月前の写真。
私のところに戻って来た時、彼は憲がレンズの前でにっこり笑うまで1時間くらい待ってたことを思い出した。

叔父は憲の顔を見ながら写真を指差して彼に笑いながら何かを言っていた。
彼が憲の右耳の耳たぶのほくろを叔父に見せると叔父は台所の叔母のところに行って興奮しながら話をしているのが聞こえた。

「びっくりした。あなたの小さい頃の写真、憲そのものね!」

私がそれを彼に言うと、「ってことは大きくなったら俺みたいにいい男になるってことかな」と得意げに笑った。

何枚かの写真の中には彼が亡くなった母親に体を摺り寄せて甘えているように見える小学生の頃の写真もあった。
優しそうな顔立ちの人だった。
そしてその隣の目立たないように飾られている小さな写真に目を移したときに私は見入ってしまった。

彼に似た面差し。
ローライフレックスを持ってタバコをくわえている男の人の写真。
髪型が時代を思わせるが彼に似たその野性的な風貌を見ながら私はそれが彼の亡くなった父親であることは容易にわかった。
その写真立てを手に撮ると右下に「LHJ」と右上がりの手書きの文字が書いてある。

「イ・ヒョンジョン。俺の父だよ」

私の後ろから彼が私に声をかけた。
このローライフレックス・・・「殉職した先輩の形見の・・・」と言っていたのは彼の父親のカメラだったの?

「父は報道写真家だったんだ」

その写真を見つめる私に彼が言った。

「俺が母のおなかにいるときに父は殉職。カメラマンとして大した仕事もしないうちにベトナムから帰る途中で死んでしまったんだ。母とは結婚してから一年も経ってなかったのにね」

まるで他人のことのようにそう話す彼を私はじっと見つめた。
叔父夫婦が台所から果物やお菓子やお茶を運んできた。
私たちが彼の父親の写真たてを見ているのを知ると居間に座るように言いながら私に話してくれた。

「あいつはな・・・戦争している場所にわくわくしながら行ったもんだよ」
「妹はほんとに大変な奴に惚れたもんだ、と女房と話していたんだがね」
「ほんとに運の悪い奴だよ。妹は」

叔父はこの話はこの場に合わないと思ったのかそれ以上は彼の父親の話をしなかった。
私たちは居間のソファに座るとあらためて挨拶を交わした。
叔父は「英語は得意じゃないから通じるかな・・・」と私に詫びながら言った。

「日本で有名な恋愛小説家の麻里さんがピョホナの嫁になって韓国に来てくれるなんて、ほんとに嬉しい。ありがとう」
「麻里さんが忙しいのはピョホナからよく聞いているよ。憲の面倒は私たちで見るから仕事に専念してくれていいからね」
「定年になってから私たちには時間だけは十分あるからな」

叔父はそう言いながら憲を抱っこすると、目を細めて憲をみつめた。

「それにしても・・・ピョホナが私たちに結婚したいって言って来た時は驚いた。いつ帰ってくるかわからないような仕事振りだったからな」

そう言うと叔母もそれに同意するように大きく頷いた。

「結婚したい女の人がいる。子供ももう生まれてるんだって聞いたときは、ピョホナを叱ったよ。妊娠してる麻里さんを放ってアフリカに行ったって言うじゃないか」

叔父はそう言いながら彼を責めるような顔でちらっと見た。
叔父の英語はとてもゆっくりでちゃんと私には伝わった。

(叔父様・・・私が勝手に妊娠したんです・・・)

彼が叔父にどういうふうに話を伝えているかはわからなかったが彼が一番の悪者で、私にとても申し訳ないことをしてしまった男に仕立てられていたのを知って、私はちらっと彼を見た。
彼は叔父の前で申し訳なさそうに頭を下げていた。

私は日本で有名・・・なほどでもないし、正しく言えば恋愛小説家・・・でもない。
彼に初めて会ったときに確か、そんなことを伝えたかもしれないがやっぱり彼には私が書いている小説の内容を正直に言っておかなければいけないと思った。
友人が言っているように、韓国という国の貞操観念が日本と全く違うことが本当だとしたら、大変なものを書いている嫁をもらったことになる。
私は何一つ恥ずかしい気持ちはないけれど、あの気のいい叔父夫婦や彼を騙して仕事をするのが耐えられなくなった。
少なくとも彼には言っておかなきゃ・・・私はそう思った。

叔母は彼そっくりな憲があくびをしたり、喃語を発したりするたびにかわいくてしょうがないとでも言うようににこにこと見ていた。
これから叔父夫婦が憲の面倒を見てくれるという。
私はこの優しそうな二人を見て安心して憲を任せられると思った。
私の仕事を考えて彼と叔父夫婦がいろいろなことを考えてくれたことを感謝しなければいけないと思った。

夕食まで少し時間があるから新居を見てきたら?と言われ、私たちは叔父夫婦の隣に立つつつましい平屋の新居に憲を連れて言った。
庭を挟んですぐ隣の小さな家。最初は叔父夫婦の家から歩いて10分ほどの家を契約したらしいが半月前、急に隣家が空き、改めて契約しなおしたと言った。

それほど広くもなく、新しくもないが、隣家と地続きの庭は広くて、憲が歩くようになったときも十分遊ばせることのできる広さだった。
家に入るといわゆるリビングダイニングとでも言うか、それほど広くはないが、明るい色目の空間だった。
ソファは置いてなかったがローテーブルと大きなクッションが何個か置いてあった。
壁のまんなかにはモンゴルの夕陽の写真が大きめのパネルに入れられて飾られてある。
モンゴルのその写真があるだけで居間の印象が変わる気がする。
その周りには憲の写真が数枚。
そして少し離れたところに憲を高く抱っこしている私の写真、あの公園で彼が撮った写真が目立つように飾ってあった。
私はその写真をじっとみつめた。
彼が私たちのところに戻ってきた日の写真・・・そう、その日彼は初めて憲に会いに来た日だった。
木漏れ日の中で、憲は私に抱っこされて高いところから私を嬉しそうに見ている写真。
私も憲を見てにっこり笑っている。
私はあの日のことを思い出した。
そして、きれいにレイアウトされた写真たちをまるで個展のように見ていた。

居間の隣に真新しいダブルベッドの置いてある寝室があった。
その寝室には彼が撮った憲と私の写真を何枚も重ねてコラージュにされたパネルがあった。
よく見ると撮り手の彼は憲と一緒に撮っている写真がとても少なかったのか、数枚の貴重なそれを真ん中に置くようにしてあるのがおかしかった。
居間がそれほど広くないせいか、寝室に大きな本棚が置いてあり、彼の仕事に関する道具、カメラがきちんと収納されており、あとは数冊の写真集。自分が今まで出版したものと、他の写真家のもの。
あとはずらっと並んだ専門書、自分が撮りためたスナップ写真を収納したアルバムが数冊。
これから毎日、仕事に疲れたらそれらをじっくり見せてもらうことにした。

その隣には小さな部屋があり、そのうちの一室には私が日本から送った衣類などの荷物が積まれていた。
この部屋を仕事部屋にしてくれていい、と彼は言ってくれた。
インターネットも、もう使えるようになっているらしく品川で使っていた私のPCと彼用のPCがその部屋の机の上に並んで置いてあった。

「全部やってもらっちゃって・・・本当にありがとう」

私は彼に頭を下げてお礼を言った。
彼はアフリカから韓国に直行し、編集作業をしながら家を決め、家具や家電を用意したのを想像すると本当に大変だっただろうと思った。

「いや、そうでもない。中古が多いんだ。ベッド以外はね」

彼はそう言って私を見た。

「仕事ができる環境くらいは整えてあげないとな。韓国まで連れてきたんだから」

私は自分の本や、衣類、憲の身の回りのもの、本当に自分のものだけしか用意しなかったことを詫びた。
食器はさすがに私の母がカジュアルなものを一式揃えてくれた。
韓国式の食器は生活をしながら必要なものをこれから自分で揃えて行こうと思っていた。
私は自分たちの新居のあれこれを彼だけに用意させるつもりは最初からなかったのに、彼が迎えに来たときにはすっかり整っていたのだ。
案外彼がそういうところに拘るのが意外だったけれど、多分、彼の叔父や叔母がそうしなさいって言ったんだと思った。

ローテーブルの前に座ると、私の小説のことを彼に話す前に彼の父親のことを聞きたいと思った。
父親に対して彼の思いを聞いておかなければいけないように感じていた。

「ねぇ・・・尊敬している報道写真家、殉職したっていう人はあなたのお父様だったの?」

「え?ああ・・・」

彼はそれまで漂っていた甘い雰囲気から正気に戻るように頷いた。

「・・・実は父に対しての尊敬の気持ちっていうのはちょっと変わってるんだ」

彼は話し始めた。

「報道写真家としてまだ食えないような時期に母と恋に堕ちて結婚し、父はその直後にベトナムに向かったらしい。それも嬉々としてね」
「俺の父親は家庭的な夫とは程遠い、内戦を探して喜んで出かけるような男だったらしい」

彼はそう言うと自嘲気味に笑った。

「母はすぐ妊娠がわかったのにそれを叔父に黙っていた。ベトナムの父を叔父は仕事をやめて帰ってこいって言うに違いないって思ってたから。だけどどんどんおなかは大きくなってくるし、妊娠してる事が隠しようがなくなって、叔父はやっぱり気をもんで、ベトナムにいる父にどうやってしらせようかって苦心したらしい。」
「そして通信社を通じてやっと連絡が取れて、実際に父はすごく喜んで・・・」
「その後、もうすぐ帰るって連絡してきて、そのあと、慈善団体から依頼のあったアジアの子供達の写真を撮るために立ち寄ったカンボジアで殉職したんだよ。皮肉だよね。子供たちを救済する写真を撮りに行って命を落とすなんてな」

彼がモンゴルから手紙をくれたときに「先輩のやりかけの仕事をすることに決めた」と書いてあったのを思い出した。
でも、彼の父親はカンボジアで殉職し、彼は憲と私の元に帰ってきた。
モンゴルで彼は手紙を書きながら、死んでいく私を思い、父親のやろうとしていた仕事を引き受けた、そのときの彼の感情を私は理解しようとした。

「ローライフレックスがお父様の形見だったのね・・・」
「そう。でも仕事で使っていたカメラはひとつも戻ってこなかった。フィルムも。ローライフレックスは父親がベトナムに行く前に家に置いてってものらしい。父の唯一の財産かな・・・」

「母は多分、殉職した父のことを知ってショックだったと思うけど、教師をやってたし、悲しんでるばかりじゃ生きていけないしね。それに叔父が自分のところにおなかの大きい母を呼び寄せて三人で暮らすことになったんだ。だから俺は生まれてから、母と叔父夫婦と三人の親に育てられたようなもんだよ。」
「俺が中学の時に母が亡くなって、もちろん悲しかったけど、叔父夫婦がいたおかげで、ほんとに何一つ寂しい思いもすることはなかったんだ。叔母はあの通り優しい人だしね」
私は黙ったまま彼の言葉を聞いていた。

「実際には母の法事の時についでに父の墓にもお参りする程度で、父のことは俺が幼い頃から家では話題にさえならなかった。今の話だって俺が大きくなってから叔母から少し聞いただけだから」
「父のあの形見のカメラだって母の遺品を整理していて叔母がみつけたんだ」

「俺、これでも英語の成績がよくてさ。叔父は高校の英語の先生になればいいって言ってたんだ」
「だけど大学を決めるときにね。自分が何を将来やりたいか、って考えたときに無性に写真をやりたくて。何が俺を駆り立てるのか全く理解不能だったよ」
「あの父には実際かわいがられたこともないし、父だって俺の顔を見ることもなく亡くなったわけだからね。正直に言えば父親だと思ったこともあまりない。俺の父親はずっと叔父だったから」
「俺にとっては父はむしろ忘れ去られた存在だったんだ」

そう言うと胸に抱いている憲の顔をじっと見つめた。
憲は父親と視線が合うと彼のあごに向かって手を伸ばした。
彼は憲の頬に伸び始めている髭をわざと押し付けた。
チクチクするその感触に憲はイヤイヤをするようにくすぐったそうに顔を動かした。

「俺が大学で写真を勉強したい、って叔父に言った時、すごくびっくりしてたよ。でも当たり前だよね。高校の頃は写真のことなんかこれっぽちも話題に上らなかったんだから。もちろん叔父には反対されたよ。俺が父親と同じく報道をめざすんじゃないかって思ったらしい」
「正直言えば、親代わりで俺を育ててくれたのに写真をやりたいだなんて叔父には申し訳ない気持ちもあったんだけどね」

私は黙って聞いていた。

「絶対だめだって叔父は言い続けてたんだけど、叔母が叔父を説得してくれてね」
「そんなわけで俺は今、大学で写真を勉強しはじめて・・・」

私を見て彼はにこっと笑った。

「母がね・・・」

彼は話を続けた。

「俺が小学生の時に母が父の撮った写真の記事を箱から出してじっと見てることがあったんだ」
「俺や叔父の前じゃ、そういう顔、一切したことなかったからちょっと声かけられなかった」
「多分父親との甘い思い出に浸っていたのかな・・・柔らかい顔してたんだ」

彼は思い出に浸るような顔をした。

「今思えば、母は多分、ずっと父のことを愛してたんだと思う」

そう言うと私を見て取り繕うように言った。

「あんな父親なのに、母の愛情の対称であり続けるって、それがすごいなって大人になってから思うようになった」

彼はそう言うと自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「こういう感情、尊敬ってのとは違うか?違うよな」

そう言いながら自嘲気味に笑った。

「写真家になっていろんな国に行くようになって、父は何を考えながら撮ってたのか?ってたまに考えるんだ」
「父親のイメージがあまりにも希薄で、俺の中ではあの写真の父しか見たことないのに、俺の仕事にまで影響する父の存在をね」

そう言うと彼は憲の手を上げたり下げたりしながら笑わせていた。

私はそれを聞きながら、私が憲を妊娠したのを知った時に彼が父親として憲のそばにいるべきだと強く主張した意味が初めてわかったような気がした。
私は感傷的な話は苦手だったけれど、叔父夫婦のおかげで愛情に飢えることもなく育った彼が抱いていた想い・・・可愛がられた覚えのない、一枚の写真でしか知らない彼の父への思慕を知って複雑な思いを抱いた。
自分の中の父親・・・あまりにも不確かな存在。
ともすると忘れてしまいそうなその存在を自分がS地区の仕事をすることで消化しようとしたんだろうか?
もしそうなら・・・彼らしいと私は思った。

死というものが殊更それまでの記憶を美化することはよくある。
ただ、永遠の愛を彼が美化しているのだとしたら、そしてそれを私に強要するのだとしたらこの結婚の行く先は見えてる。
私は彼のお母様とは多分真逆だから。

何も知らなかった彼の生い立ち・・・ある意味、彼は父親の柔らかな呪縛に囚われているのだと思った。
もちろん彼自身、それをよくわかっているだろうけれど。
品川で三ヶ月一緒に過ごしていた頃は、彼のプライベートには正直言って興味もなかった。それが私達の生活には何一つ関係のないことだったから。
これからこうやって彼の思い出を共有し、彼の思いに触れていく。
薄っぺらな関係から、私たちは同じ思いを共有しあう同士になる。
私が苦手な過去の共有・・・
過去に何があってどんな思いをしたのか、それを聞くことが私を意味不明なほど胸を締め付けることがある。
彼を抱きしめたい思い・・・
そういう感情が私は苦手だった。
私が一人の男とずっと一緒に生きていくことを決められなかったのは、付き合うにつれて重なってくる記憶の反芻。。。澱のように留まる思い・・・
それらが私を締め付けるような気がするのだ。
過去を積み重ねて今の彼がいるのはよくわかっているけれど、
精神も肉体も自由でいたいと思ったときに、それらは私を縛り付けるような気がした。
私は憲と遊ぶ彼をじっとみつめた。
彼の性格を考えれば、彼の中にはそんな重さを私に強要するつもりはない・・・と思う。
淡々と自分の父親を自己紹介するように私に教えてくれた、そんな軽い雰囲気で彼が私に話してくれたのがとてもありがたかった。





「ねぇ・・・私の小説なんだけどね・・・」

ん?と言いながら私を見る彼に私は覚悟を決めて話し始めた。

「あなたならわかってもらえると思うけど、私の小説っていわゆる、恋愛小説・・・のカテゴリーには確かに入るのかもしれないけど、内容はね・・・」
「知ってるよ」

私は驚いて彼を見た。

「品川に居た頃、君、よくPCを落とさないままで寝ちゃったり、シャワー浴びたりしてただろう?ある時、いったい君がどんなのを書いてるんだろうって思ってね」
「だって読んだって意味わからないじゃないの!」
「翻訳機にかけた」
「ええええ???!!!」

驚いている私にいたずらっぽく私を見ると、暗誦しているように言った。

「その男は・・・女の両足をぐっと真横に開くとその真ん中に顔をうずめて・・・」

そう言いながら床に寝かせた憲の足を彼がぐっと開くと憲が大声で笑った。

「ちょ、ちょっと!!ストップ!!!」
「けっこう覚えてる」と彼は言う。
「もう、趣味悪いわね~!!覗きじゃないの、それ!知ってたんなら私に言ってくれればよかったのに!私これでも、いつあなたに告白しようかって思ってたんだから」

彼を責めるようにそう言うと憲が私のその顔を見て、自分があやされてると思ったのか
声をあげて笑った。
私たちはそれにつられて二人で笑った。

「今晩・・・君が書いたとおりにやってみようか・・・?」

私の耳元で囁くようにそういうと憲を抱っこしたまま、私に顔をそっと近づけた。

「いいわよ・・・あの話じゃ、最後は女が馬乗りなんだけどね・・・」

それを聞いてぶっと彼は吹き出して笑った。
私も笑った。
内心は焦っていたが絶対に笑って済ませておかなければいけなかった。
彼には言わなかったけれど、私は彼との三ヶ月で何度も彼とSEXをしてきた、その時の彼の様子を思い出しながら書くことがよくあったが、彼はそういったことには気がついてないようだった。
例えば、私をわざと焦らしてイかせないようにしたり、私の弱点の背中をゆっくり舌で這わせたり、インサートすると彼は必ずキスをほしがることや、一度目のSEXの時と二度目の時は腰の使い方が違うとか、反対に私が彼を・・・咥えた時の彼のセクシーな喘ぎや、眉間に寄せる皺、また、私が馬乗りになった時に必ず彼は指を絡めたがることなど、自分でわかっているかどうかは別として私は彼の癖やSEXの嗜好をよく書いていたのだ。

今まで、付きあってる男とのSEXをネタにしたことがない、と言えば嘘になる。
ただ、彼とつきあい始めてから、私はフィクションを書きながらSEXの描写においては私小説そのものだった。
とにかく彼はアブノーマルなところは一切ないのに、私をいつも翻弄させた。
もちろん私も彼を一生懸命愛した。
恋愛経験豊富な私なのに、彼の前では私は心底「メス」になれるのだ。

彼が私のPCを覗いて翻訳機にかけて読んだことを悪趣味と私は責めたけれど、考えてみれば私の方がずっと悪趣味なのかもしれない。
私は憲をあやすフリをしてこの話題から話を逸らせた。
私たちのSEXがネタになってるなんて知られたらこれからの「夫婦生活」に支障が出てくるような気がしたからだ。
まったく自分たちのSEXの風景を描写するなんて仕事中毒とでも言うのか・・・
心の中で彼にごめんね・・・って手を合わせた。

叔父が夕食が出来たことを告げにきた。
明日は母と玲子たちがソウルに来ることになっている。
彼女たちを迎えに行き、その足でホテルにドレスを持ち込んで・・・
私は明後日の結婚式のためにやるべきことを箇条書きにしたものを冷蔵庫に貼ると憲を抱っこする彼の後について、隣家に行った。




☆ビョンホンさんの癖・・・ごめん!勝手に書いてます!(///▽///)テレテレ♪
もしちょっと違う?場合は申し出ください。待ってます。(来るわけ ないだろ!


☆都合により再編集(3名様、17話わかりにくくて申し訳なかった~)
バッハマン関連は「ソヌのケーキ」の前に移動!
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by juno0712 | 2009-03-08 20:33 | 創作・HOME | Comments(20)

HOME18話

二日後・・・
結婚式はソウルのホテルで執り行われた。
私は三時間も前にホテルに入り、そのホテルのメイク係3人に手際よくヘアメイクを施された。
乃木坂で買ったシンプルなドレスに着替えると「花嫁」に仕立て上げられていく過程をそばで見守っていた母は感慨深げに私を見つめた。
シンプルなラインで胸元に少しレースをあしらったそのドレスは、乃木坂で玲子と一緒に見立てたものだ。
日本の結婚式の、色内掛けやら、お色直しの着物やドレスを用意する必要がなかったので、ウエディングドレスだけは自前で揃えることにした。
大人の女にふさわしい、甘さを抑えた上質の風合いを私たちは一目で気に入り、試着をしたときに玲子が絶賛してくれた。

「うん!とても 子持ちの女豹とは思えない!!GOODよ!!」

あの店で玲子はそう言って私を茶化した。

長い髪の毛もUPにして、少し濃い目のメイク、特にアイラインを使ったちょっときつめのアイメイクのおかげで少し童顔な私も一気に美しい花嫁(!)に変身した。
隣の控え室に行くと彼が憲を抱っこして待っていた。
彼は私を見てはっとしてしばらく私をみつめた。
そして、目を輝かせてにこやかに笑いながら近づいて来た。

「憲・・・お前のお母さん、すっごくきれいだな・・・」

そう言いながら憲に話しかけると憲が私を見て抱っこをせがむように泣きそうな顔をした。
私は彼から憲を受け取ると、胸元の繊細なレースに気をつけながら憲を抱っこした。
憲は私の胸に顔を寄せてぐずぐずとむずがり始めた。
私は憲を抱きなおして背中をぽんぽんと叩いた。

「腹が減ってるんじゃないか?」
「ええ?さっき ミルク飲んだばっかりよ??」
「じゃ、こいつも緊張してるのかな」
「いつもと違う格好させられてるしね」

叔父夫婦が用意をしておいてくれた赤ちゃん用の韓服。
青い地模様の入ったそれは憲には少し大きかったが憲はとてもりりしく見えた。
彼はむずがる憲の薄い髪の毛を、ペットボトルの水を手に少しつけて撫で付けると、きっちりと七三分けにした。
私はそれがおかしくて、泣いている憲をヨシヨシと言いながら笑いが止まらなかった。
憲も私たちが笑っているのを見ているうちにそれにつられてやっと機嫌が直り、にっこりと笑った。

黒いタキシードを着た彼も今までで一番素敵だった。
髪の毛は少し伸び始めたままにしていたけれど、そのくらいの長さが彼には一番合っている。
外見からはあのたくましい体はとても想像できない。
すっきりと少し細身にさえ見えた。
確かに私は面クイだけど、今までつきあった男の中で文句なく最高にハンサムだと彼を見ながらそう思った。
彼が「何一つ気を使うようなことはない、すごくラフな式だから」そう言って私に言ってくれたけれど叔父夫婦を除いて初めて彼の関係者に会うことは、やはり私を少し緊張させた。

結婚式が始まった。
招待客は、彼の恩師や助手時代の同僚、学生時代の友人、ほぼ男たち、合わせて100人ほどの賑やかな会だった。
私の側の出席者は母、兄、仲のいい母方の従兄弟、玲子、悠香、計5人。
つまり、韓国語の飛び交う中で、私たちは何を聞いてもまったくわからない状況で始まった。
厳かな・・・雰囲気とは真逆の、彼の大学時代の恩師や、彼が助手をやっていた頃の、韓国では高名な写真家でさえも、結婚式という大義名分に名を借りて、最初からわいわいと皆、楽しんでいた。
私たちが列席者全員の前で結婚したことを宣言し、同時に憲のお披露目をすると言う一風変わった人前結婚式だった。
一生の愛を誓うか?というような言葉はなぜか一切なく、コンセプトが結婚の報告会だったことが意外だったけれど、私にはとても合っているような気がした。

彼に招待客のことを聞いてみると、すべて友人任せだったので知らない人もいる、顔だけ知ってる程度の人もたくさんいると言う。
韓国式の結婚というのは、濃い仲かどうかではなく、誰でも祝う気持ちがあれば、お相伴に預かれるらしい。

憲が紹介されると前方のスクリーンに、彼に抱っこされてにこにこ笑っている姿が映し出された。
みんな暖かい拍手をしてくれた。
結婚式をする前にもう4ヶ月になろうとしている男の子がいるなんて、普通は少し恥ずかしいのかもしれないけれど、少なくとも彼の仲間は大歓迎だった。
憲はかわるがわるいろんな人に抱っこされて目をきょろきょろさせていた。

「興奮してきっと今晩泣き通しよ。」

悠香は機嫌よく笑顔を振りまく憲を見ながら私にそういった。

何しろ韓国語は日本側の列席者は誰もわからず、隣の彼がげらげら笑っている理由も、
友人が私にお酒を注ぎに来て、何かを一生懸命しゃべってるその意味も全くわからなくてただにこにこしていた。

友人と楽しくしゃべっている彼を見るのは何か不思議な光景だった。
けして嫌な感じではなく、私の知らない学生時代、あるいは写真家として仕事をはじめた頃の彼が垣間見れて私は彼が友人達と笑いながら話しているのを興味深く見ていた。
彼には確かに少し孤独を感じていた。
だけど3ヶ月暮らして、彼がおそらく家族や友人とノーマルな関係を築いているだろうことは想像していたので、子供のような顔をして嬉しそうに談笑する彼の顔を見るのはなんとも微笑ましい光景だった。

私たちはひな壇に座っているわけではなく、彼と自由に動き回って招待客とお酒を飲み交わしたり、談笑したり、目上の人に挨拶したり、まったく気を使う雰囲気がなかったことがかえって嬉しかった。

彼が助手時代の時の恩師につかまって何杯も酒を勧められているのをくすくす横目で見ていると、私のところに一人の男が近寄ってきた。
彼と同じくらいの年齢に見えるその男は少し酔っているようだった。
そして私に向かって若干 呂律の回らない口調で言った。

「あんたさぁ・・・ピョホナのどこに惚れたんだ?」

その男は韓国なまりのブロークンな英語で私に話しかけてきた。
なかなかのハンサムだったが彼は誰かとつるむわけでもなく最初から一人で飲んでいたようだった。
私を下から上に舐め回すようなその視線に失礼な感じを受けたが、私はにっこりと笑うと手に持っているマッコリを少し上に差し上げて挨拶を返した。
「ビョンホン先輩を崇拝している」という大学時代の後輩が私の側にやってきて英語でささやくように教えてくれた。

(彼はですね・・・大学の卒業の写真展でも先輩に最高賞を獲られて二位。プロになってから3年目の新人写真家達の個展でも、圧倒的に人気のあったのはビョンホン先輩だったんですよ。何やってもあいつは先輩を追い越せない奴なんですよ・・・)
(そんなわけで彼は今、方向変えてファッション関係のカメラマンやってます)

「へぇ・・・」

片岡みたいなその後輩にありがとう、とお礼を言うと私は「何やっても彼を追い越せない奴」に飲み物を差し出した。
彼はその飲み物を受け取ると私に尋ねた。

「あいつは一流の写真家になると思ってるのか?」
その彼は私にそう言った。

「ちょっと有名になったからってあいつは金持ちにはなれねぇな。あんな長期スパンの撮影スタイルじゃ・・・」

そう言うと何かに気づいたようにはっとして言った。

「あ、そうか・・・それとも、あんた、もしかしたらあいつのでかい口に惚れたか?」

そういうと自分でげらげら笑っていた。
私はその彼をまっすぐ見て、にっこり笑い返しながら言った。

「SEXよ」

「え?」

「彼のSEXが最高だから私、結婚したのよ」

ぎょっとしてるそいつの顔をじっと見つめたまま私は手に持っていたマッコリをごくんと飲み干した。
その時、周りから大きな歓声が沸き起こった。
私と彼はずっとビデオカメラで追いかけられていて、その映像が正面のスクリーンに映し出されていたのだ。
あちらこちらから指笛がいくつもいくつも鳴った。

それに気づくと私は慌てて、ちらっと母のいる座席のあたりを見た。
母はあんぐりと口をあけて呆然としていた。
兄は苦笑し、玲子たちは大笑いしていた。
私は母に向かって急いで取り繕うように口を動かした。

「マ・ママ!!え・ん・しゅ・つ・だから!え・ん・しゅ・つ!!」

彼の友人が大勢私たちの周りを囲み私の隣にぴったりと押し付けられた彼は肩や頭をばんばん叩かれてもみくちゃにされた。
そして誰かがマイクを持ち込んで厳かな英語で彼に聞いた。

「ピョホナ・・・新婦の言っていることは間違いないと誓うか?」

彼は私の腰をぐっと引き寄せると、私たちを捉えているビデオカメラに向かって目を見開き、大きく頷きながら親指をぐっと立てた。

その映像が映し出されると更に大きな歓声が沸き起こり、私たちのまわりにどんどん人が集まってきた。
彼の親しい友人達はまるで私を受け入れる!!とでも言うようにみんな私に握手を求めてきた。
こうして私は韓国の彼の友人達の仲間入りを果たした。

それから三時間・・・大騒ぎのうちに「結婚報告会」は終わった。
彼の写真家仲間が最後に集合写真を何枚か撮ってくれたが、私たちを真ん中にした写真は一枚もマトモに撮れているものがなかった。
ピントは完全にあっているのにみんながあちこちを向いて笑っていた。

結婚式が終わると余韻に浸る暇もなく、私はホテルで、彼の用意してくれた韓服に着替えた。
ピンクとこげ茶色のシルクのそれは、ある意味ウエディングドレスを身につけるよりも私を厳かな気分にさせた。
これを着て、これから叔父夫婦の家に戻り私は彼と挨拶をするのだ。
はじめて静粛な雰囲気になることを想像すると少し緊張した。
母はその姿を見て、「麻里・・・すごくきれい・・・」そう言って私をじっとみつめた。

これから緊張する場面が待っているのにも関わらず、彼の叔父夫婦の家に向かうタクシーの中で、母は思い出したように懇々と私にお説教をした。
私が大勢の人の前で、彼を選んだ理由を「SEX」と明言してしまったことが
母にしてみたらとんでもないことだったらしい。
でも、ああいうタイプの男はぎゃふんと言わせないと気がすまないのだ。
悲しい性というのか、過敏に戦闘態勢に入ってしまう自分自身に多少呆れながら
あの彼はきっと今一人さみしく酒を飲んでるだろうと思ってふっと笑った。

叔父夫婦の家に着くと、私たちより数分前に着いた彼が玄関に出て来た。
叔父夫婦もにこやかに私たちを出迎えてくれた。
私はまだ3日しか叔父夫婦たちと付き合っていないのに、叔父の顔を見てほっとしていることが不思議だった。

玄関にあがると、私と母にとってはじめて厳かな式が待っていた。
彼が用意してくれた韓服・・・
ざっくばらんな結婚式だから何も気を使うことはない、と言いながら彼はこの韓服を叔父夫婦の前で着てほしいと私に言った。
彼が拘っていたのは、多分私の韓服姿を叔父夫婦に見せてあげたかったのではないかと思った。
私は日本人だけれど、韓国人の彼に嫁ぎ、韓国人の彼の妻として生活をしていくのだ。
両親の変わりに彼を愛して育ててくれた叔父夫婦への恩返しをしたかったに違いない。
私は彼の申し出を快く受け入れた。

私は彼に教わったとおり、叔父夫婦の前ではじめて嫁としての務めを果たした。
彼に従って私は叔父夫婦の前で恭順のポーズを取ると床に額がつくようにひれ伏して深々とお辞儀をした。
叔父夫婦は私たちを見て感慨深げに大きく頷いていた。

「麻里さん・・・悪いね。疲れているのに」

叔父は私を見てそう言った。

「ピョホナがこんなきれいなお嫁さん、連れてきてくれるなんて」

叔母がしみじみそう言ったその時に私の後ろで母に抱かれて大人しくしていた憲が「あ~あ~」と大きな声を出した。
憲は結婚式の途中で眠ってしまい、控え室でホテルのベビーシッターの方にお願いしていたのだが、叔父夫婦の家に着くと同時に目を覚ましてしまったのだ。
まるで自分の存在を忘れられては大変と自己主張するように思えて、私たちは笑った。
叔母が母に向かって言った。

「お母さん、麻里さんと憲に会いに、いつでもどうぞいらしてください」
「韓国と日本は近いですから」

母は彼に叔父の言葉を訳してもらうと「カムサハムニダ」とひとつだけ覚えた韓国語を言い、憲を抱っこしたまま頭を下げた。
儀式が終わると私たちはお酒を飲みながら談笑した。
言葉はわからなかったけれど、たまに叔父夫婦はゆっくり英語で言いなおしてくれた。
彼もタイミングを見ながら通訳をしてくれていたが、そのうち、ぎこちなさが取れて韓国語と日本語と英語がちゃんぽんになったなんとも不思議な会話が展開され、しかもなんとなく話が通じているのが可笑しくてしょうがなかった。

叔母は私の実家の仕事が食器の輸出入をしていることを知ると仁寺洞(インサドン)に韓国式の食器を取り扱っているいいお店があるから、と明日日本に帰る前に母を連れて行ってくれることになった。
夜遅くまで私たちは話し、12時を過ぎて母はホテルに帰って行った。

タクシーに乗る前に母は言った。

「麻里・・・いい方達でほんとに私も安心したわ」
「叔父様夫婦のこと、あなたはこれからお義父さん、お義母さんって呼ばないとね」

私もうん、と頷いた。
母と一緒にホテルに泊まれば?と彼は言ってくれたが母はそれを固辞し、あっさりと帰って行った。

玲子と悠香は明日、明洞で韓国コスメをあさり、エステを楽しんでから帰ると言っていた。
私は彼女たちが泊まっているホテルに電話をし、ボストン行きが近いのに私たちの結婚式に出席してくれた玲子に感謝を伝えた。

結婚式が終わり、明日からは私は少しずつ仕事も再開しなくてはいけない。
彼も明日からモンゴルの写真集の編集に取り掛かることになっていた。
編集作業は彼の大好きな仕事だった。
モンゴルで撮りためた何千枚もの写真をひとつひとつチェックするのだと言う。
その編集作業が終わったら、新婚旅行代わりに一泊でもいいから近場に旅行に行こうと言う彼の言葉を楽しみにすることにした。

深夜に私たちは新居に戻り、私は憲をそっとベビー用のベッドに寝かせた。
叔母が部屋を暖めておいてくれたおかげで室内はとても暖かかった。
部屋着に着替え、お風呂の用意をしている時に、ハングルで書かれた操作方法を忘れてしまって彼を呼んだのに声がしなかった。
寝室に戻るとさっき私がベビーベッドに寝かせたはずの憲をダブルベッドの真ん中に寝かせて、彼は憲にぴったり寄り添うように寝入ってしまっていた。

(そういえばかなり呑んでたわよね・・・今日は)

一緒に暮らしていた頃は深酒もせず、健康管理にも気をつけていた彼の、初めて見る酔いつぶれた姿に苦笑してしまった。

「ねぇ・・・お風呂、お湯出すのどうすればいいんだっけ?」

何度聞いても彼は答えてくれなかった。
私が諦めてお風呂場に行こうとすると彼がむにゃむにゃと寝言を言った。

「・・・Jewel・・・幸せにするから・・・」

私はふふっと笑って彼を見つめた。

そうよ。私を幸せにして。
結婚するつもりのなかった私を後悔させないで。

人の気持ほど不確かなものはないのに私を結婚する気にさせた彼。
彼とつきあいはじめて私はいろんな決意を衝動的にしている。自分でも驚くくらいに。

(初夜に花嫁を放っておいた罪はつぐなってもらうわよ。明日)

私は最後にそう囁くと彼と憲の頬に順番にキスをした。







お疲れ様でございました。
ついにじゅえる先生、結婚しちゃいましたね~
彼のおいたち・・・韓ドラちっくでしたか?
だからと言って悲しさ、せつなさがつきまとわないように書いたつもりです。
彼は叔父夫婦にかわいがられて育ったのですから。
かわいがられて育ったんだけど・・・自分の父親への思いをいつもどこかで感じていた?
家族が話題にしなかったからなおさらね。
しかも彼のお母さんは殉職した父親との結婚を後悔してないようですからね。
彼にとっては不思議な存在だったんでしょうね・・・

もうラスト・・・と言いながらまだ終わりません。
多分・・・21か22話が最後かな??
ってそのたびに延びてるような・・・ははは
私、久々、明日は有休とりました!!
もう、そのあとはずっと取れないほど忙しくなりそうなので。
だから明日は・・・

書かねば~~~~~~!!!(///▽///)テレテレ♪←これ、特に意味ないんですが、すいか家でぱくってきて
気に入って使ってみました。
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by juno0712 | 2009-03-08 20:17 | 創作・HOME | Comments(32)

日々の徒然にも脱力目線であれこれと。そしてびょんほん♪


by juno0712